結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
 低く抑えた声はどこか呆れたようで、それでいて親しさも滲んでいる気がした。

 その響きに、自分でも理由のわからないモヤモヤとした感情が広がる。

 やがて迅は短く息を吐き、通話を切る。スマートフォンをポケットへしまうとすぐに透子に気づいた。

「お疲れ。仕事終わりに悪かったな」

 こちらに向けられた落ちつた笑みに、正体不明の胸のざわめきはすぐに消えていく。

「お待たせしてすみません。もっと早めにくればよかったですね」

(まだ待ち合わせの時間まで余裕があるって、完全に油断してた)

 そもそも彼の提案とはいえ、大企業の社長を商業施設のエントランスでひとり待たせてよかったのだろうか。

「いや、大して待っていないし、透子と会えるのが楽しみだったから」

 そう言うと、迅は顔を綻ばせて軽く透子の髪を撫でた。自然な仕草なのに、胸の奥がきゅっと熱くなる。

「疲れてるだろう。まずひと息いれるか」

 迅は透子の腰をそっと抱き寄せ、人混みを避けるように歩き出した。触れられた場所から熱がじわりと広がっていく。

(やっぱり、最近の迅さん、心臓に悪い……!)
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