結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
「いえ、私たちは基本的に出張はないんですが、彼はバックオフィス担当で、各サロンを回っているので」

「……彼」

 笑顔で説明していると、迅がポツリと零した。

「はい、私が入社したときからお世話になってる人で、そんなに年は変わらないのに、すごく気遣い上手なんです。私がチョコ味が好きなのを覚えてくれてて――」

「腹が減ったな」

 続きを遮るように、低く硬い声が落ちた。隣を見ると、迅の端正な横顔がわずかに不機嫌そうに歪んでいる。

「迅さん?」

「そろそろ飯にするか」

 迅は柵から体を離し、透子に背を向け歩き出した。マフィンの話をしたから、お腹が空いてしまったのかもしれない。

 それならと、透子は彼の横に追いつき声を掛けた。

「だったら中華街で一緒に食べ歩きしませんか?」

「食べ歩き?」

 聞き慣れない言葉だったのか、迅はわずかに首を傾げる。透子はその反応に小さく笑みをこぼし、こくりとうなずいた。

(いつものように、高級レストランで食事をして終わりじゃ、面白くないもんね)
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