冷徹営業トップは私の限界オタクでした

第1話「助けた人は同じ会社の営業トップでした。」

金曜日の深夜0時過ぎ。
ようやく終電で最寄り駅にたどり着いた陽菜子は、小さく息を吐いた。

「今週も終わったぁ……」

眠気と疲れを引きずりながら、いつものように近道の公園へ足を向ける。
公園の木下に月明かりに照らされ、キラキラと光る動かない人がいた。
陽菜子は恐る恐る近づいた。
キラキラ光っていたのは血だった。誰かに暴力を振るわれたような怪我を顔や腕にした、赤茶色の髪色の若い男性が木にもたれかかっていた。



陽菜子は驚いて、声をかける。

「大丈夫ですか!?」

「ん…」と短く反応しうっすら目を開ける男性。視界がぼやっとしてよく見えない。

「救急車呼びましょうか!?」

「いや、呼ぶな…」

「でも…」

「頼む。」

「……分かりました。でも、せめて応急処置だけでも。」

陽菜子はそういい、その場を去り、近くのコンビニに行き、消毒液と絆創膏、包帯を買った。
急いで公園へ戻る。

「救急車呼ぶなと言うなら、手当てさせてください。」

困っている人を放っておけない陽菜子。

「少し染みますよ。」

傷口へ消毒液をかける。
男性は眉をひそめるが、声は上げない。

「我慢強いですね。」

「……慣れてる。」

「とりあえず、応急処置はできましたよ。」

ふぅとため息をつく。

「…すまない。助かった。」

そういい、ふらっと男性は立ち上がった。
よろめきそうなところを陽菜子は支えた。

「大丈夫ですか?帰れますか?」

「あぁ…」と短く返事をして一人で歩こうとするがふらふらしていた。

みかねた陽菜子は男性の腰に手を回した。

「捕まってください。家まで送りますよ」
と強引に男性を家まで送ろうとした。

「いや…」

男性はふらついた。

「私に頼ってください!あなたを一人で帰らすわけにはいきません。」

「…わかった。」

陽菜子は男性の腕を自分の肩に回した。
ふわりとシャンプーの香りがした。

(近い……。)

二人は歩き出した。
男性はぼやっとする視界で陽菜子を見る。ぼやっとする視界と夜が更けていてよく顔が見えないが、身長差は20センチほどあるだろうか…。
まぁこの女性はこんな時間に、知らない男を助けるのか。 危機感がないのか……いや。馬鹿が付くほど、お人好しなんだ。 と感心した。
男性年の道案内により、公園から徒歩10分くらいの男性のマンションに到着する。
マンションの廊下の電気が切れている。階の角部屋、暗がりの中、男性は鍵をあける。

「助かった。」

部屋の電気をつける。無駄な物が一つもない、生活感の薄い 1LDKの部屋が見える。
2人の顔もよく見える。
男性をソファに座らせて、はじめて二人はくっきりと顔が見えた。
陽菜子は男性の顔を見た。耳にかかる程度の長さの赤茶色の髪、青白い肌、細身だがしっかり筋肉があり、八重歯がちらつく。

「……ちくわくん ?」

陽菜子がなんとも奇妙な名前を口に出した。
男性の視界や意識が戻ってくる。

「ッは…!!」

初めて、その女性の顔を真正面から見る。男性に電撃が走る。

(……春宮、陽菜子さん。)

心臓が跳ねる。鼓動がうるさい。 呼吸が浅い。 茶色のセミロング。
柔らかな笑顔。
優しい瞳。
その瞬間――
男性の思考が止まる。
男性は陽菜子をよく知っていた。

「あ、ごめんなさい。あなたがうちの犬にそっくりで!」

陽菜子は慌てて謝った。自分の飼っている犬とこの男性が似ていると思ったのだ。

「…っ。」

顔を真っ赤にする男性。
(無理だ。これ以上一緒にいたら…)
「あ、ありがとうございましたっ!!もう、帰ってもらって結構ですッ!!」

急に敬語になり、目をぎゅっと閉じ、陽菜子に言う。

「わ、わかりました。じゃあ、お大事にしてください」

急な変わりように驚いて、陽菜子は去っていった。
玄関の扉が閉まる音がした。
男性は真っ赤な顔をしながら、今にも泣きそうな顔で膝から崩れ落ちた。

「陽菜子さん…」

震える声で、その名を口にする。

「…会えた。」

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