冷徹営業トップは私の限界オタクでした
食事を終え、恵美と別れ、営業部へ戻る陽菜子。
陽菜子は、残っていた領収書の処理を再開した。
午後三時を過ぎた頃、営業部の扉が開いた。
神崎と白石の姿を見つけた瞬間、陽菜子は無意識にほっと息をついた。
神崎は一目散に、陽菜子の隣のデスクに向かう。
それを見た白石は唇を噛んだ。

「神崎さん。おかえりなさい。」

「ただいま戻りました。春宮さん。」
(陽菜子さんに「おかえりなさい」と言っていただけるなら、外回りも悪くない……)



「どうでした?」

「無事、契約の方向で話がまとまりました。」
「あ、もう三時なんですね。ちょっとお茶淹れてきますね。」

神崎は給湯室へ向かった。
白石は唇を噛み、神崎の後を追った。
外回りの間、何度話しかけても、神崎が応じるのは仕事の話だけだった。
ランチも一緒に取ったが、帰社した彼は自分には目もくれず、真っ先に陽菜子のもとへ向かった。
このままでは、何も変わらない。
白石は焦る気持ちを抑えられないまま、給湯室へ入った。

陽菜子はいつもお茶を淹れてくれるお礼に、駅前に新しくできた店のクッキーを持ってきていたことを思い出した。
クッキーなら紅茶にも合うだろう。陽菜子は引き出しから小さな紙袋を取り出し、神崎に伝えるため給湯室へ向かった。

給湯室へ向かうと白石の声が聞こえた。

「神崎さん……今日は助かりました。神崎さんのおかげで、無事に話がまとまりました。」

「いえ、後輩を助けるのは先輩の役割ですから。」

白石はぎゅっと手を握りしめた。

「神崎さん、私…神崎さんのことが好きです。」

それを聞いた陽菜子は胸の奥に、細い針で刺されたような痛みが走った。



陽菜子はクッキーの紙袋を握りしめたまま、神崎の返事を聞かずに引き返した。
クッキーはデスクの引き出しに再びしまった。

(白石さんは美人だし、同じ営業部でずっと神崎さんを見てきたんだ。きっと神崎さんも…… 。)

それ以上考えるのをやめた。
しばらくして、神崎はいつもと同じ表情で、二つのカップを持って戻ってきた。
その後ろに白石の姿はなかった。二人がどんな話をしたのか、神崎の表情からは何も読み取れなかった。

「春宮さん。お茶どうぞ。」

「いつもありがとうございます。」

陽菜子は平然を装った。どうなったか聞きたかった。でも聞けなかった。
陽菜子はクッキーをしまった引き出しへ目を落とした。渡すために持ってきたはずなのに、今は開けることさえできなかった。
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