冷徹営業トップは私の限界オタクでした
陽菜子に案内され、二人は彼女の家の近くにある半地下のイタリアンバーへ入った。
二人はカウンター席に座り、白ワインを頼んだ。おつまみにチーズも。
「これはとてもおいしいワインですね。」
神崎はワインを一口飲むと陽菜子に微笑みかけた。
「ちくわくんに喜んでもらえて嬉しいです。」
陽菜子はグラスの脚を指先でなぞりながら、何度か口を開きかけた。
「あの……この前、ちゃんと聞けなかったことがあるんです。」
「なんでしょうか?」
陽菜子はワインへ視線を落とした。
聞いてはいけないことかもしれない。けれど、ずっと胸に引っかかっていた。
「火曜日、白石さんに告白されていましたよね」
「聞いていたんですか?」
神崎の目がわずかに見開かれた。
「白石さんと、お付き合いしているんでしょうか? もしそうなら、飲み直そうなんて誘ってしまって申し訳ないです 」
「白石さんにはお断りしました。なので、気にしないでください。」
「えっ、そうなんですか?」
胸の奥に張りつめていたものが、ふっとほどけた。
なぜ自分が安心したのか、陽菜子には分からなかった。
「あともう一つ聞きたいことが…。」
「な、なんでしょう?」
「残業したときに差し入れしてくれていたのが、ちくわくんだとわかったのは良かったのですけど、なんで、私にそんなことしてくれたんだろうと不思議で。」
「……。」
(これは本当のことを話すべきなのだろうか。これ以上の機会はない。すべて話してしまおう。」 )
神崎は陽菜子にすべて正直に話した。
「二年前、陽菜子さんが一人で残業している姿を見ました。それから、誰かのために頑張り続けるあなたを何度も見かけました。」
神崎はゆっくりと言葉を選んだ。
「俺は……ずっと、陽菜子さんを応援していました。陽菜子さんは、俺の推しなんです。」
陽菜子は何度か瞬きをした。
営業部まで迎えに来てくれたこと。
いつもお茶を淹れてくれたこと。
自分が困るたび、真っ先に駆けつけてくれたこと。
「つまり……ちくわくんは、私のファンってことですか?」
「そうです!」
目をぱちくりさせる陽菜子。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
「ファンだなんて照れますね。でも、二年前から見ていてくれたなんて……嬉しいです」
話しているうちに時間は過ぎ、空になったグラスが一つ、また一つと増えていった。
陽菜子はいつの間にか、二杯目のワインをほとんど空にしていた。
「陽菜子さん?そろそろ、お酒は控えた方が…。」
水を差し出す 。
「いいえ!今日は飲みます! 」
そう意気込む陽菜子だったが、すでにろれつが回っていなかった。
「陽菜子さん、そろそろ帰りましょう。ご自宅まで送ります 。」
「え、ちくわくんおうち来てくれるんですか?」
陽菜子はカウンターへ頬をつけたまま、神崎を見上げた。

「いえ、そういう事ではなく送っていきますと…。」
(う…酔った陽菜子さんかわいすぎる…!!)