冷徹営業トップは私の限界オタクでした
翌日の火曜日。
この日は神崎に昼の会食が入っており、一緒にランチを取ることはできなかった。
その代わり、陽菜子が席へ戻ると、デスクの上には見慣れたチョコレートと一枚の付箋が置かれていた。
『今日は一緒に行けなくて残念です。また空いている日があったら誘いますね』
見慣れた神崎の字。
陽菜子は付箋を手に取り、小さく笑った。
「……ちくわくん、律儀だなぁ。」
一緒にランチへ行けないだけなのに、わざわざこんなものを残してくれる。
チョコレートを引き出しへしまい、付箋をそっと手帳へ挟んだ。
水曜日の朝。
今日も経理部の前には神崎の姿があった。
けれど、月曜日とは少し様子が違った。
神崎は数人の女性社員と話をしていた。
以前なら考えられないほど、柔らかな表情を浮かべている。
「神崎さんって、意外と話しやすいんですね。」
女性社員の一人が笑う。
「そうですか?」
神崎も穏やかな笑顔を返していた。
その光景を見て、陽菜子は足を止めた。
以前の神崎なら、興味のない相手には冷たい態度を取っていた。
けれど、最近は違う。
――もう少し優しい断り方のほうが安心ですよ。
以前、自分がそう言ったことを思い出す。
ちゃんと聞いてくれていたんだ。
そう思うと、陽菜子は嬉しくなった。
「あ、春宮さん!」
陽菜子に気づいた瞬間、神崎の表情がさらに明るくなる。
「おはようございます。」
「神崎さん、おはようございます。」
陽菜子が近づくと、話していた女性社員たちは神崎と陽菜子を交互に見てから、その場を離れていった。
「最近、神崎さん優しいよね。」
「うん。前より話しかけやすくなった。」
そんな会話が遠ざかっていく。
「春宮さん、今日もランチどうですか?」
「はい。行きましょう」
陽菜子は笑顔で答えた。