冷徹営業トップは私の限界オタクでした

第28話「もう少し、あなたに近づきたいです。 」

日曜日。
陽菜子と神崎は、水族館へ来ていた。
恋人になってから、二度目のデート。
休日ということもあり、館内は家族連れやカップルで賑わっている。

「紅夜くん、見てください。クラゲ、綺麗ですよ。」

「はい。」

青い光に照らされた水槽の中を、半透明のクラゲがゆっくりと漂っている。
陽菜子は水槽へ顔を近づけた。

「なんだかずっと見ていられますね。」

「そうですね。」

「……紅夜くん?」

陽菜子が振り返る。
神崎の視線は、水槽ではなく陽菜子へ向けられていた。

「また私を見てました?」

「……すみません。」

「前の紫陽花のときもそうでしたよね。」

「努力はしているんですが。」

「何の努力ですか。」

陽菜子がくすくすと笑う。
そんな陽菜子を見て、神崎もわずかに口元を緩めた。
少し前までなら。
休日に二人で出かけるだけでも、神崎は何度も限界を迎えていた。
けれど今は、少しだけ違う。
隣を歩く二人の手は、自然につながれていた。
陽菜子はそっと、つないだ手へ視線を落とす。
前回は、自分から勇気を出して『手をつなぎたい』と伝えた。
あれほど緊張したのに。
今日は待ち合わせてしばらくすると、どちらからともなく手をつないでいた。

(……恋人っぽくなってきたかも。)

そう思うと、頬が少しだけ熱くなる。

「陽菜子さん?」

「な、なんでもないです。」

「そうですか?」

神崎が不思議そうに首を傾げた。
陽菜子は、その手を少しだけ強く握った。

「っ……!」

途端に、神崎の肩が跳ねる。

「紅夜くん?」

「大丈夫です。」

「まだ慣れてないんですか?」

「慣れる予定はありません。」

「え?」

「陽菜子さんと手をつないで平然としていられるようになったら、俺は俺ではありません。」

真顔で言い切られ、陽菜子は吹き出した。

「ふふっ。なんですか、それ。」

「重大な問題です。」

「じゃあ、一生慣れないんですか?」

「一生幸せでいられるので、問題ありません。」

そんなことを真顔で言うから。
陽菜子はまた顔が熱くなってしまった。

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