君と迎えるクランクアップ

スポットライトが照らす距離

夜遅くのスタジオ。



今日のスケジュールがすべて終了し、静まり返ったセットの裏側は、昼間の喧騒が嘘のようにひっそりとしていた。



機材の片付けや明日のスケジュール確認に追われていた塁は、誰もいないはずのセットの隅で、小さな人影を見つけた。


「……優愛? こんなところで何してんだ。もう帰るぞ」



声をかけると、校舎の廊下を模したセットの窓辺に腰掛けていた優愛が、ゆっくりと顔を上げた。



制服のブレザーを脱ぎ、ブラウス姿の彼女は、どこか遠くを見つめている。



「ねえ、塁。ちょっとだけ、ここに座ってよ」



ぽん、と隣のスペースを叩く。



断る理由を探したが見つからず、塁は渋々彼女の隣に腰を下ろした。



遠くの廊下の常夜灯だけが、ふたりの影をぼんやりと照らし出している。



「疲れたのか?」



「ううん、疲れてはないけど……なんだか、まだ役が抜けないのかな」



優愛は膝を抱え、自分の両腕に顔をうずめた。



その肩が、小さく震えているように見えた。



「ドラマの撮影が進むにつれてさ、みんなが私を『ヒロイン』として見てくれるの。RENもすごく優しくしてくれて、周りからは『お似合いだ』って言われてさ」



「……」



「でもね、なんだかそれが、すごく窮屈に感じちゃって」



顔を上げた優愛の瞳が、暗がりの中でも潤んでいるのが分かった。



「私は、ただ作られた物語の中で誰かに恋をしているふりをしているだけなのに。みんなが本当に私のことを分かってくれるわけじゃないって、急に怖くなったの」



大人気女優としてのプレッシャーと、誰にも言えない本当の恋心。



その狭間で彼女がどれほど緊張し、孤独と戦っているのか。



塁は初めて、優愛の本当の弱音を聞いた気がした。



「お前は、一人じゃないだろ」



思わず、塁は口を開いていた。



「どんなにちやほやされても、お前がどれだけ努力してるか、俺が一番近くで見てる。……お前がどんなに不器用で、昔から泣き虫だったかも、全部知ってる」



「……塁」



「だから、そんなに怖がらなくていい。お前は、お前のままでいいんだよ」



静寂の中、ふたりの距離が縮まる。



スポットライトの落ちたセットの中で、幼なじみという壁が、音を立てずに薄れていくのを感じた。



優愛がゆっくりと顔を上げ、塁のまっすぐな目を見つめ返す。



その距離は、キスができるほど近くにあった。
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