終わらない夜に
食後、私たちはそのままこのホテルの客室があるフロアへと向かった。
私が少し席を立ったうちに部屋を押さえてくれたのだろう、急遽だというのに部屋は上階のスイートルームに通された。
「それでは失礼いたします」
客室係が部屋を出ていくと、室内には私たちふたりきりとなる。
私の住むアパートより広いこの部屋は、大きな窓のカーテンを開けると六本木から東京タワーなどの夜景が広がっている。
「つぐみ」
どことなく緊張感が漂う中、背後に立っていた彼が耳元で名前を囁いた。
答えようと振り向いた瞬間、彼は言葉なくキスをする。
さっきまでの触れるだけだったキスとは違う、舌を絡ませる深いキス。
唇に吸い付きながら舌が口の中をなぞる。
その口付けに応えるので精いっぱいで、上手く息が吸えなくて酸欠になりそうだ。
唇が離れると同時に力が抜けた体を、名執さんは軽く受け止めてベッドルームへ運んだ。
間接照明がほのかに照らす薄明かりの中、柔らかなベッドに私を置くと上から私に覆い被さる。
私を見つめる熱っぽい視線が、いつもの彼と違って見せる。
どこか余裕のなさそうな、自分を抑えるような、情熱的な眼差し。
いつもは優しい名執さんのこんな表情、初めて見た。
彼は首筋を唇でなぞりながら、一枚ずつ私の服を脱がせていく。
「名執さ……」
名前を呼びかけた私の唇を塞ぐようにキスをして、舌先を絡める。
視覚が、触覚が嗅覚が、すべてが彼で埋め尽くされていくのを感じた。
確かめ合うように見つめて、何度もキスを繰り返しながら彼を受け入れると、少しの痛みと苦しさの中、幸福感が包み込んだ。
「つぐみ……好きだよ。そばにいてほしい」
耳元でささやく低い声に、ゾクッと体の奥がうずいた。
……幸せ。
あの日、名執さんと出会えてよかった。
あのときの出会いがあったから、今こんなにも幸せを感じられている。
思わずこぼれた涙に気付いて、名執さんは頬を撫でて拭う。
「ごめん……痛い?」
「違うんです。幸せだなって、思って」
「……俺も。今まで生きてきた中で、一番幸せだよ」
優しくささやいて抱きしめてくれる、そんな優しい彼とひとつになれてうれしい。
こんなにも幸せなのに……心の奥底に、微かな罪悪感が消せない。
私でいいのかな、つり合わないのに。
その腕に抱かれる資格が、私にあるのかな。
どうしてもそう思ってしまう。
幸福感とどこか薄暗い気持ちが入り混じる中、繰り返し体を重ね、熱を帯びた肌に包まれたまま眠りについたのは深夜遅くだった。
「ん……」
目を覚ますと、陽の光が照らす明るい部屋で私を見つめる名執さんがいた。
「な……!? えっ、名執さ!?」
「おはよ。よく寝てたね」
驚く私におかしそうに笑う名執さんは、いつもは軽く分けている髪を下ろした姿が少し幼くてかわいい。
「見てたんですか?起こしてくださいよ……!」
「かわいかったからつい。途中むにゃむにゃ言ってて愛しかったなぁ」
そんなところまで見られていたなんて。
恥ずかしさから彼に背中を向けて顔を隠すと、名執さんは後ろからぎゅっと抱きしめる。
「好きだよ、つぐみ」
こんなに幸せな朝、夢みたい。
どうしても自分に対する劣等感が消せない。
だけど彼が『好き』だと伝えてくれるから、自分がここにいることを許される気がする。