終わらない夜に

そして迎えた日曜日。
都内にある有名ラグジュアリーホテルにて、私たちは入り口のドアを抜け、真っ赤な絨毯のエントランスを歩いた。

気合いを表すように、シワひとつない紺色のスーツを着た名執さんと、少しでも品よく見えるように薄水色のワンピースを着た私。

そして、そんな私たちの前を率先して小走りする雪人と冬馬……。

「わー!きらきら!きれー!」
「まま!ぱぱ!みて!」
「しーっ、ふたりとも静かに。うろうろしないの」

初めて目にする高級感あふれる場に、ふたりはキョロキョロとせわしなく顔を動かす。
そんなふたりを周囲の客や従業員はさすがの余裕でにこやかに見守ってくれるけれど、私は冷や汗をかきっぱなしだ。

本当は今日、原田さんに子供たちを預かってもらいふたりで来る予定だった。
けれど、原田さんがギックリ腰になってしまい預けることはできず……。
そこで名執さんが、秘書である丸尾さんに預かってもらうことを提案した。

「でも丸尾さん、急遽呼び出して子供たちを預かっててほしいなんてお願いして大丈夫でした?」
「『そう言う事情なら』ってすんなり承諾してくれたよ。ああ見えて子供好きだからよろこんでたし」

先日会ったときのクールな雰囲気からは意外な一面だ。

話をしているうちにエレベーターに乗り、私たちは最上階のレストランに到着した。
入口前にはすでに丸尾さんが待っていて、お互い深々と挨拶をしたのちに丸尾さんは子供たちと初めて顔を合わせた。

「初めまして、丸尾と申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ゆきと!」
「とーま!」

手を上げ答える雪人と冬馬に、丸尾さんはそれまでのキリッとした顔を一瞬で緩めた。

「では副社長、私は同じレストラン内の別の個室におりますので。終わりましたらご連絡ください」
「ありがとう。頼むね」
「すみません、よろしくお願いします」

丸尾さんは一礼すると、子供たちを連れて名執さんが事前に押さえておいた個室席へと向かっていった。

子供たちは私たちと離れる不安など微塵も感じさせず、初めて会う丸尾さんに興味津々で話しかけている。
こういうとき人懐こい子供でよかったと心底思う。
これで個室でご飯を食べれば、すぐお昼寝して大人しくなるだろう。

ふたりになったところで、私と名執さんは顔を見合わせうなずいた。

私たちは、やるべきことをやらなければ。
意を決してレストランに入店し、先に着いているというご両親がいる個室へと通される。

ドアをノックし部屋に入ると、目の前にある大きな窓に広がる都内の景色が一番に目に飛び込んできた。
その窓を背景に部屋の真ん中に置かれた横長のテーブルには、並んで座るひと組の男女がいる。

ひとりは茶色い髪を右で分けた男性──恐らく名執さんのお父さんなのだろう。
チャコールグレーのスーツがよく似合う、優しげな笑顔のお父さんは、正直言って名執さんそっくりの顔つきで血のつながりがひと目でわかるほどだ。

そしてもうひとりは……白いジャケットに青色のワンピースを着た、名執さんのお母さんだ。

「やっと来た、蒼。あなたが予定の時間の2時間前に来るように言ったのに、随分遅かったじゃ、な……い」

ぱっちりとしたその目は、名執さんの一歩うしろにいる私と目が合った途端に驚き見開かれた。

緊張と不安で心臓がぎゅっと苦しくなる。
お母さんはそんな私から視線を外すと呆れたように言う。
 
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