終わらない夜に
「……蒼。今日は桜川さんとの顔合わせよ、部外者には帰っていただいて」
「部外者じゃないよ。今日俺は、彼女とのことを話しに来たんだから」
名執さんはお母さんを目の前にしても怯むことなく、後ろにいた私の肩を抱いて隣へ来させる。
「本人にも母さんにも何度も言ってるけど、俺は桜川とは結婚しない。俺が結婚するのは、彼女だよ」
堂々とした結婚宣言にうれしくて胸がときめく。
けれどそれに対してもお母さんは怪訝に顔を歪める。
「バカなこと言わないで。この結婚はうちにも桜川さんにもメリットのある結婚なの。あなたも跡継ぎならわかるわよね?」
続いて私へ視線を向け「それに」と言葉を続けた。
「あなたには随分前に話をしてわかってもらえたと思ってたんだけど」
確かに、お母さんからすれば結局別れていなかったんじゃないかという不信感しかないのかもしれない。
私への印象はさらに悪いだろう。
だけどここで逃げてはいけない、と自分に言い聞かせて私はその場で頭を下げる。
「本日は突然申し訳ございません。どうしてもお話がしたくて……蒼さんにお願いをしてこの場を設けていただきました」
できるだけ大きな声ではっきりと言い顔を上げる。しっかりとふたりを見る私に、お母さんは少し驚き、お父さんはにこりと笑った。
「わかった。じゃあ桜川さんに連絡して、今日の顔合わせはなしにしよう」
「はぁ!? あなたなにを……」
「そもそも桜川さんにメリットの多い話でうちとしてはそうでもないし。それに蒼自身が望んでいないなら、この話は無しだよ」
お父さんは「ね」と名執さんに向かって笑う。
お母さんとは真逆といっていいほど穏やかな人だ。
そして意外にもお母さんはそのお父さんのペースに弱いようで、それ以上の反論を飲み込んだ。
お父さんは早速桜川さんに連絡をして顔合わせの件を断ると、続いて私たちに席に着くように促した。
「私は初めましてだね、えっと……」
「初めまして、藤咲つぐみと申します」
「つぐみさんか、かわいらしい名前だね。いつも息子がお世話になってます」
目を細めて笑うとますます名執さんに似ている。思わずじっと見てしまう私の視線には気づかず、お父さんは名執さんに目を向ける。
「それにしても彼女がいたなんて知らなかったなぁ。お母さんは知ってた?」
「え、えぇ……まぁ、その」
私との一件はお父さんには言っていないのだろう。お母さんはバツが悪そうに濁した。
「どれくらい付き合ってるの?出会いは?告白はどっちから?」
「……父さん、そういう話はまたあとで」
さすがの名執さんも呆れたように話を止める。
すごいマイペースな人だ。お母さんも名執さんも、お父さんのペースにのまれてしまうのだろうことがわかる。
4人向き合いその場が一瞬静かになったタイミングで、私は話を切り出した。
「率直に申し上げます。私には3歳の双子の息子がいます。……蒼さんの、子供です」
「……え?」
突然の『蒼さんの子供』発言に、驚きの声を漏らしたのはお母さんだった。
「3歳って……あなた、まさかあの頃」
あまりにも予想外だったのだろう、目を大きく開いて驚きを隠せない様子だ。
「妊娠が発覚して……でも正直、私は家庭環境が良くはなくて、こんな自分では彼に迷惑をかけてしまうと思って黙ったまま離れました。今まで黙っていたこと、本当にごめんなさい」
座ったまま、私は深く頭を下げる。
「だけど彼と再会して、優しさに触れて、やっぱりそばにいたいって思ってしまったんです。
私は彼に相応しくないかもしれないけど……それでも彼と生きていきたい、彼と子供たちと笑っていたい」
会社にとってなんのメリットも生まれない、むしろあの母を身内に持つ私との結婚はご両親から見たら不安でしかないのかもしれない。
だけど私はもう、譲るつもりはない。
名執さんと、子供たちと生きていきたいから。