終わらない夜に
話を終えて婚姻届の証人欄にも記入してもらい……ご両親と別れた頃にはすっかり日が暮れ、子供たちはぐっすり眠ってしまっていた。
丸尾さんが『話し合いの邪魔をしてしまったお詫びにもう少し子供たちを見てますので、おふたりでお出かけでもいかがですか』と言ってくれたため、お言葉に甘えて私たちは少しだけふたりの時間を過ごすことにした。
そしてふたりでやってきたのは思い出の場所、渋谷シャインタワーだ。
じつに4年ぶりに訪れた屋上展望台はあの頃のまま変わらず、東京の景色が一望できた。
「わぁ……相変わらずいい景色ですね」
「うん。今日も星がきれいだ」
ふたりで夜空を見上げると、自然とお互いに目が合う。
それが少しくすぐったくてふたりで小さく笑った。
「今日、名執さんのご両親とお話しできてよかったです」
「俺も。反対されてもつぐみを選ぶ、って気持ちでずっといたけど、ちゃんと受け入れてもらえるのはやっぱりうれしいと思った。
それもこれも、つぐみのまっすぐな気持ちがあったからだね。ありがとう」
率直に褒める言葉を口にする彼に、恥ずかしさを誤魔化すように視線を外へ向けた。
そこでふと、この屋上展望台に私たちしかいないことに気がついた。
いつもは時間帯制で入れ替えがあるくらい、他のお客さんがたくさんいるのに。
「今日ガラガラですね。他のお客さんどうしたんですか?」
「このあと設備点検があるから今日は展望台は休業なんだ。だから今は貸切みたいなもの」
「へぇ、なんだか贅沢な気分ですね」
へへ、と笑って展望台内を歩き出そうとした私に、名執さんは軽く手を引く。
「誰にも邪魔されたくなかったからちょうどいいかな」
「え?」
なんの話、とたずねようとすると、名執さんは私の前にゆっくりひざまずいた。
そしてジャケットの内ポケットから手のひらサイズの箱を取り出すと、私の前に差し出す。
「これ……?」
「まだちゃんと言ってなかったから、改めて言わせてほしい」
その言葉とともに箱が開けられ、目の前にはダイヤモンドがついた指輪が輝く。
「好きだよ、つぐみ。俺と結婚してください」
思えばまだ、こうしてきちんとプロポーズの言葉はなかった。
子供たちもいるし、婚姻届も書いたし、今更婚約指輪もプロポーズもなくたって夫婦になれるのに。
こうしてちゃんと伝えてくれる、彼の優しさがうれしい。
「はい。よろしくお願いします」
笑って頷くと、名執さんは私の左手薬指に指輪をはめてくれる。
ライトの光に反射して、ダイヤモンドがキラキラと美しく輝く。
こんなに幸せでいいのかな、なんて怖くなってしまう。
だけどその気持ちすら彼は、また笑顔で包んでくれるから。
立ち上がった名執さんに、ぎゅっと強く抱きついた。
ここまでくるのに4年もかかってしまった。
だけど、まだ遅いなんてことはない。
ここから家族になって、まだまだ続いていく道を、手を取り歩いていくんだ。
時につまずいて、そのたびどちらかが手を差し伸べて、支え合って生きていく。
夜風に包まれ、愛を誓うようにキスをした。
そんな私たちを、夜空の星たちが今日も優しく見守っている。
end.


