騎士団長は天才魔石職人を手放さない
 ある日、アルバートが魔石通信機で部下とやり取りをしていると、イヴに呼ばれた。ドミニクは完成品の配達に出ていて不在だった。


「何か?」

「騎士団から依頼を受けていた防具の試着をしてくれ」

「任せてくれ」


 用意されていたのは鎧で、内側に魔石が仕込まれているという。


「軽量と身体強化の魔石を仕込んだから重くはないはずだが、着用の際は引っ掛けないように気をつけてくれ。本体を薄くしようと思うとどうしても埋め込めないから、魔石の部分が引っ掛かりやすいんだ」

「あ、ああ」


 イヴは淡々とアルバートに鎧を着つけていく。

 カチャカチャと金具がぶつかる音に混じって、イヴの息遣いがやけに大きく聞こえた。


「当たっている個所はないか?」

「だ、大丈夫だ……」


 伸びたままのイヴの白銀の髪がはねて、アルバートの首筋をくすぐった。イヴの息や指先、視線がアルバートの身体の柔らかいところに触れるたびに、息が詰まって仕方がない。


「ちょ、イヴ」

「なんだ」

「少し離れてくれ」

「装着中だろうが」

「そうなのだが……っ」


 無事に鎧の装着を終え、イヴが離れたとき、ようやくアルバートは息ができた。


「違和感は?」

「な、ないが、いや、右の脇が当たる」

「どこだ」


 再びイヴの手がアルバートの身体に触れた。


「イヴ、待て……」


 イヴがちらりとアルバートを見上げ、そしてフッと微笑んだ。


「なんだ、団長殿。生娘のように頬を染めて」

「何を言っているんだ!?」

「冗談だ。なんだ、暑いのか?」

「そういうわけじゃ……でも窓は開けよう。汗が止まらない」


 アルバートは近くの窓に手を伸ばした。同時にイヴも窓を開けようとして、手が重なった。


「すまない……っ」

「なにを騒いでいるんだ」


 イヴは首をかしげて窓を開けた。

 涼しい風が工房に入ってきて、アルバートの火照った頬を冷やす。


「ああ、手に油がついたのか? 悪いな、洗ってきてくれ」

「それは大丈夫だ。それに、俺はイヴの手は好きなんだ。俺と比べれば華奢だが、繊細で、美しい手だ」

「……はいはい。相変わらずだな、団長殿は」


 イヴはそっぽを向いて、アルバートの鎧の調整を続けた。

***

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