騎士団長は天才魔石職人を手放さない
「先生、戻りました。……お客さんですか?」

「ドミニク、遅いぞ。そのせいで余計な厄介ごとが増えた」


 イヴは椅子の背にもたれかかり、アルバートの向こう、ドミニクへと視線を投げた。

 ドミニクはアルバートを見て、不思議そうに首を傾けた。


「団長さんではないですか。いかがなさいましたか?」

「実は、イヴ殿が他国から狙われているという情報が入ったから護衛に伺った。しばらくここに住まわせてもらう」

「左様ですか」


 ドミニクはアルバートが拍子抜けするくらい軽い返事をして、抱えていた荷物を近くの机に乗せた。


「だから言っただろう」


 イヴが顔をしかめた。


「僕の知識と技術が狙われるのなんていつものことだ。お忙しい騎士団長様にご足労いただくなんて申し訳ない。帰ってくれ」

「帰らない。事態が解決するまで、俺はあなたの騎士だと言ったではないか」

「いいじゃないですか、先生。団長さんは料理はできますか?」

「あ、ああ。野営も行うから、最低限の料理や洗濯などの炊事は可能だ」


 ドミニクは保管庫に食材を入れながら「いいですね」と頷いた。


「助かります。先生はご覧の通り、とにかく生活力もコミュニケーション能力も足りてないもので」

「うるさいぞ、ドミニク」


 イヴが鋭い声を出した。

 アルバートが改めてイヴを見ると、髪はぼさぼさで、エプロンの紐が今にもほどけそうだ。顔色は真っ白で、手首は折れそうなほど細い。目の下は黒く、唇はかすかに切れていた。年の頃はアルバートより多少若い、二十代後半といったところだろうか。

 ドミニクの方は小柄ではあるが溌剌としていて、十代になりたてくらいに見える。


「失礼だが、イヴ殿とドミニクはどういった関係だろうか?」

「ドミニクは僕がその辺で拾ってきたんだ」

「ひろ……っ?」


 あまりの言い草にアルバートは絶句したが、ドミニク本人は気にもせず、床に落ちていたネジを拾い集めてカゴに片づけた。


「そうです。オレ、戦争孤児なんですよ。行き倒れていたところを先生に拾われて、先生の生活のお世話をさせていただきつつ、魔石の加工技術を教わっています」

「そうだったのか。すまない、興味本位で聞くことではなかった」

「ふん。そいつの出自なんて僕には関係ない。仕事を任せられるかどうかだ」


 いつの間にか、イヴの手元にはペンと紙があり、設計図のようなものが描かれていた。

 アルバートはそっと覗き込んだが、何が描かれているのかさっぱりわからない。


「団長さん」


 ドミニクが手招きをした。


「先生がお仕事をしている間に、今後のことを決めましょう。団長さんはしばらくこちらにお住まいですか? それとも騎士団の宿舎から通われますか?」

「住まわせてもらえればありがたいが、イヴ殿に相談をしてからのほうがよいのでは?」

「大丈夫ですよ」


 洗い終えたらしい衣類を畳みながら、ドミニクが言った。


「団長さんのことは大丈夫みたいですから」

「何を根拠に?」

「先生は、信用できない相手の前で仕事を始めません」

「……そうなのか」


 アルバートは改めてイヴを見た。相変わらずぼさぼさの髪に隠れて、顔はまったく見えない。節くれだった手が休むことなく動き続けるだけだったが、アルバートはその骨ばった背中をずっと見ていたかった。

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