Clover:たったひとつの記憶

EP03

 この世界では、殆どのモノの情報は、データによって管理されている。
 例えば今――。サツキは天候や気温データをもとに、トミオの衣装をクローゼットから検索する。
 初夏とはいえ半袖だけでは肌寒いと考えたのか、薄手のカーディガンも選択したようだ。更に必要があればトミオの着替えを手伝うこともある。
 
「トミオさん、本日の予定!」
 
 ダイニングテーブルでゆっくりと食事を行うトミオに、サツキが声を掛ける。
 食べている食事はサツキによってカロリー計算されたものだ。食事も主治医の指示によってサツキが用意している。量は少なめだが、満足感が得られるよう丁寧に作られている。
 
「今日は病院に行く日だったね」
「そう、お迎えのバスは9時に来る。病院の後、帰りに“オミヤゲ”を用意する!」
「うん? 9時……だな。わかったよ」 

 サツキと暮らして7年。
 毎日予定を告げる中で、サツキがジョークを付け加えるのは初めてだ。

 (たまには良いか?)

 不思議に思ったものの、トミオはそれを気にしなかった。
 一方でジョークに対しトミオの反応が無かったためか、サツキは背中を向けた。無言のまま使用済みの食器を軽く水洗いして、洗浄ボックスに並べている。
 トミオにはその背中が少し寂しそうに思えて、背を向けるサツキに呟いた。わざと水音より小さな声で。

「……何か考えておくよ」

(サツキのことだ、きっと聞こえているだろう)

 サツキが来てくれた日から未来に進むことができた。それからずっと生活のサポートをしてくれるサツキに、心から感謝している。とはいえ“オミヤゲ”として何を渡すべきか、見当もつかない。

(もし、リエにだったら……)

 と、そこまで考えて、トミオは途中で思考を止めた。

(やっぱり今日は変だな)

 リビングのソファーに座り眉を顰めるトミオに、サツキが緑茶を差し出す。
 思考に耽るトミオは気づいていなかったが、その水面に小さな茶葉の茎が立っていた。
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