無口な彼の、静かな執着が甘すぎる。
汗でベタベタな手で私の手を掴み、引きずるようにして目線の先にあるホテルへ向かおうとする。
私にもっと力があったら、こんな手、振り払えたのに。
どうして私は、それができないんだろう。
どうして私は、柳さんみたいにハッキリ言葉にできないのかな。
「やめてください!」
「暴れるなら、ホテルじゃなくてもここでいいよ」
「なに言ってるんですか……っ……!」
抵抗したけど、この体格差で勝てるはずもなくて。
強く押し倒された勢いでアスファルトに頭を打ちつけてしまい、体から一気に力が抜けていく。視界までグラグラと揺れ始めた。
まずい、脳震盪……。
どうにかして、この状況から逃げ出さなきゃいけないのに。覆いかぶさってくる圧迫感と恐怖で、指一本すら動かす力が残っていなかった。
「助けてっ……助けて、誰か……っ」
どうせ、私の声なんて誰にも届かない。
絶望と痛みが涙となってあふれ出たその瞬間、私に覆いかぶさっていた太田さんの体重が、ふっと消えた。
「なにやってんだよ、てめぇ。とっくの昔に退院したはずだろ。なに昔世話になった人に手出してんだよ。恩を仇で返す気か」
低く、けれどブレない声で、ハッキリと自分の言葉を叩きつける。
柳さん。柳さんだ……。
「お前、病院にいたときから長島さんにちょっかいかけてたよな。嫌がってただろ」
「ぼ、僕は長島さんと結ばれるんだよ!!」
……何を言ってるんだろう、この人は。
体が動かなくても、あきれ混じりにそう思ってしまう。
「めんどくせぇな。何回言えば分かる?長島さんに触るなって言ってるの」
「なんの権利があってそんなこと言ってんだ!!」
「俺の女に手を出すなって言ってんの。ここまで言わないと分かんない?」
柳さんがそんな衝撃的なことを言っていたとも知らずに、私の意識はそのまま途切れてしまった。