喪失の夜に、あなたがいた
「佐伯明莉さんのご家族の方ですか?」

「……はい。僕が……夫です」

声が震えていた。

医師はカルテを見ながら、
 慎重に言葉を選ぶように口を開いた。

「頭部を強く打っています。
 幸い、命に関わるような大きな損傷は見られません」

楓は息を呑んだ。
 膝が少しだけ震えた。

「ただし──
 脳震盪による意識障害が出ています。
 しばらくは眠ったままの状態が続くでしょう」

胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。

「……目を……目を覚ますんですか」

楓の声は、
 祈るように震えていた。

医師は静かに頷いた。

「ええ。
 時間はかかるかもしれませんが……
 必ず目を覚まします」

その言葉は、
 楓の胸に深く落ちた。

力が抜けるように、
 楓はその場に膝をつきそうになった。

さくらが支える。

「楓。
 よかったじゃないの。明莉さんを信じて待ちましょう」

その声は優しくて、
 楓の心をそっと包んだ。

医師が去り、
 楓は処置室の中へ案内された。

白いベッドの上で、
 明莉は静かに眠っていた。
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