黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
14 狙われたレティシア
「彼ら、どうされるんですか?」
「数が多いからね。本当なら二、三人だけ生かして、あとは処分だろうけど。かといってカーン領で血を流すのは忍びない。拘束したまま別の地へ運びたいな」
伯爵とその娘が乗る家紋入りの馬車を集団で襲った犯罪。
領地内で起きた犯罪の処断は領主に任されます。
我が家にも狭い牢があるにはあるのですが……。
領内で処理しかねる場合は他家や王家を頼るのが通例。
この場合、メルウィック様の伝手を頼りにするのが一番ということになります。
「……ただ、彼らの尋問は」
「はい、メルウィック様」
「……カーン伯爵」
「はい、スワロウ師団長」
「彼らの狙いなのですが……もちろん、領主である貴方という線もあります。ただ、俺の知る限り、貴方を恨むような者がこの領地には、いそうにない」
「私も心当たりはありませんが……」
領地運営は上向きに移っているはずですからね。
視察で交流した人々も私たちに対して敵意を持っている様子はありませんでした。
「はい、それでなのですが。彼らの狙いは……」
そこでメルウィック様は真面目な顔をして私を見つめてきました。
「えっ」
もしかして。
「……娘のレティシアが狙われた、と?」
「私ですか!?」
そんな、まさか。ああ、ですが。心当たりはあります。
「……黄金」
「そうだね。レティシアは、ある意味で有名人だが、その魔法の特性も最近になってわかったことで広まってはいない。人によっては、タダで黄金を生み出せる人間だと思い込んでいる可能性がある。いや、誘拐を考えるような連中は魔法の代償なんて気にしないか」
「……そうですね」
つまり、私を誘拐するような人は、私の髪が黒く染まろうが関係なく、私に【黄金魔法】を使わせるだろうということ。
たとえ、この身がやつれ果て、死んでしまったとしても、です。
「どうしますか? 気になるのであれば、カーン家で俺が尋問します。黒幕を吐かせるぐらいは一人でできますが……」
「……しかし、数が多い。彼らを生かしたまま管理しておける力はカーン家にはありません。それに、もし、レティシアが狙われていたとしたら……我が家では」
そうですよね。
十五人近くの襲撃者たち。彼らを拘束したまま、さらに私や両親の護衛を増やして身の周りを固めて……というのは難しいです。
そのような人手は、色々な意味で揃えることができません。
「妻と娘、領民の安全さえ守れればいい。師団長が最も適切だと思われる処置をしてください」
「わかりました、カーン伯爵。レティシア・カーンは俺の直属の部下ですし、その魔法の特異性から元より護衛対象でもあります。彼女の身を守ることは仕事の内ですから、なんの遠慮も必要ありません。差し当たってですが、彼らを俺が魔法で運びますので一度、カーン家の屋敷に戻りましょう。念のため屋敷の結界を強化しておきますので。そのあと彼らを、ひとまずスワロウ侯爵領へ運んで尋問したいと思います。一応、俺も襲われた対象には入っていますので当事者ですからね」
確かに馬車にはメルウィック様も乗っていました。当事者だと言えますね。
そうなるとスワロウ家が動いても不思議ではありません。
彼が狙われた可能性もあります。
ただ、メルウィック様が馬車に乗っていたことを彼らは知らなかったのでは?
なにせ彼一人にあっという間に返り討ちにされてしまいましたので。
流石にメルウィック様がいると知っていたら襲ってこないでしょう。
あと屋敷に結界って言いました? 張ってあるのですか、結界。
メルウィック様が張ったのですよね?
「黄金狙いの賊であれば、物事は単純なんですが」
「何か他に気になることでも?」
「……彼らの武具が〝良い物〟なんですよね」
武具が良い物? つまり、彼らは、ただの賊ではない?
ただの野盗の類ならば着ている物は、もっと統一感などなく、粗末な物のはずだと。
「……この襲撃にどこかの家が絡んでいる、と?」
「レティシアか、カーン家か、俺か。知っていて襲わせるほどの得が貴族にあるんですかね? 恨みなら察しようがないので仕方ありませんが」
どうなのでしょう?
黄金狙いで他家が私を誘拐する。ありそうな、なさそうな。
その家のために黄金を作らせるのでしょうか?
お金に困っている貴族が、我が家以外にも……?
「とりあえず護送だね。伯爵、少し土を持っていきますよ」
「土? かまわないが……」
メルウィック様がその場に膝を突き、片手で地面に触れる。
すると光が地面を伝い、賊の下まで伸びていった。そして。
「おお……?」
「まぁ!」
賊を背負うように現れたのは魔法の馬たち!
「つ、ツバメどころか馬まで生み出せるのですか、メルウィック様は?」
拘束された男たちはその姿のまま、馬の背に乗せられる。
「このぐらいはね」
……このぐらい、とは?
メルウィック様は、もしかして自身の才能がどれほどなのか、わかっていないのでは。
私が言うのもなんなのですけれど。
「すごいです」
「……レティシアも、そろそろ身を守る魔法を身につけないとね」
「え、それはもしかして」
「体調は良くなってきているだろう。そろそろ、魔法の訓練を始めてもいいと思う。キミの魔力量に合った魔法の使い方を見つければいいんだ。そうすれば黄金の魔法以外も使いこなせるはずだよ」
「は、はい! がんばります!」
不安な事件は起きましたが、私にはそれ以上に嬉しいことが起きるようです。
思えば【黄金魔法】しか使えないと思っていた私。
魔法を使う楽しさを知らなかったと言っていいでしょう。
ですが、メルウィック様が見せてくれた多彩な魔法は……使えるならば、きっと楽しそうだな、とそう思えたのです。
「あとは、と」
メルウィック様は、今度は魔法のお手紙? を作り始めました。
白い紙が一枚。サラサラと光と共にそこに文字が書き込まれます。
それを封筒に包むと、魔法のツバメが一匹現れ、足で掴んで飛び立っていきました。
「伝令、ですか?」
「うん、スワロウ家にね」
本当になんでもできますね、メルウィック様は。
落ち着いてから、改めて馬車に乗り屋敷へと戻りました。
帰路はメルウィック様が結界を張った状態で進みます。
捕まえた賊たちを運ぶ魔法の馬一団と一緒に移動……。
たぶん、目撃した人々がギョッとして驚いていますよねぇ。
無事に屋敷に着くとメルウィック様は屋敷の結界の点検と強化を始めました。
賊たちは拘束を緩めぬまま、屋敷の外に放置されています。
「レティシア」
「はい、メルウィック様」
「キミ、このまま……スワロウ家へ来ないかい?」
え? スワロウ侯爵家に、私が?
「屋敷の結界は強化した。最悪、この屋敷に引き篭もることもできる。だけど、彼らの狙いがキミだとするなら……できれば俺のそばにいてほしい。その方が確実にキミを守れるから」
「守って、くださるのですか?」
「ああ、レティシアを誰にもさらわれたくない。誰にも傷つけさせたくないんだ」
「──!」
カァーッと顔が茹であがるのを感じました。
鏡を見れば真っ赤に染まっていることでしょう……。
あれ? その。前々から、もしや、と思っていたのですけど。
それは希望的観測といいますか。
メルウィック様、私に好意が……あったり、なかったり?
「カーン伯爵。レティシアをスワロウ家に連れて行ってもかまいませんか」
お父様は二つ返事……はしませんでした。
とても真面目な顔をしたかと思うと、私の瞳を見つめます。
「……レティシア、お前はどうだ? お前がいいと思うなら私は止めないよ。少なくとも、スワロウ師団長のことを私たちは信用しているからね」
「そ、それは……」
決定権は私にあるそうです。
メルウィック様と共にスワロウ侯爵家へ?
ただでさえ家族ぐるみのお付き合いが続いた三週間でした。
その上で、となると。流石に噂が……広まってしまう……でも。
私は掴みかけている……かもしれない……幸福を手放したくありませんでした。
「私は──」
「数が多いからね。本当なら二、三人だけ生かして、あとは処分だろうけど。かといってカーン領で血を流すのは忍びない。拘束したまま別の地へ運びたいな」
伯爵とその娘が乗る家紋入りの馬車を集団で襲った犯罪。
領地内で起きた犯罪の処断は領主に任されます。
我が家にも狭い牢があるにはあるのですが……。
領内で処理しかねる場合は他家や王家を頼るのが通例。
この場合、メルウィック様の伝手を頼りにするのが一番ということになります。
「……ただ、彼らの尋問は」
「はい、メルウィック様」
「……カーン伯爵」
「はい、スワロウ師団長」
「彼らの狙いなのですが……もちろん、領主である貴方という線もあります。ただ、俺の知る限り、貴方を恨むような者がこの領地には、いそうにない」
「私も心当たりはありませんが……」
領地運営は上向きに移っているはずですからね。
視察で交流した人々も私たちに対して敵意を持っている様子はありませんでした。
「はい、それでなのですが。彼らの狙いは……」
そこでメルウィック様は真面目な顔をして私を見つめてきました。
「えっ」
もしかして。
「……娘のレティシアが狙われた、と?」
「私ですか!?」
そんな、まさか。ああ、ですが。心当たりはあります。
「……黄金」
「そうだね。レティシアは、ある意味で有名人だが、その魔法の特性も最近になってわかったことで広まってはいない。人によっては、タダで黄金を生み出せる人間だと思い込んでいる可能性がある。いや、誘拐を考えるような連中は魔法の代償なんて気にしないか」
「……そうですね」
つまり、私を誘拐するような人は、私の髪が黒く染まろうが関係なく、私に【黄金魔法】を使わせるだろうということ。
たとえ、この身がやつれ果て、死んでしまったとしても、です。
「どうしますか? 気になるのであれば、カーン家で俺が尋問します。黒幕を吐かせるぐらいは一人でできますが……」
「……しかし、数が多い。彼らを生かしたまま管理しておける力はカーン家にはありません。それに、もし、レティシアが狙われていたとしたら……我が家では」
そうですよね。
十五人近くの襲撃者たち。彼らを拘束したまま、さらに私や両親の護衛を増やして身の周りを固めて……というのは難しいです。
そのような人手は、色々な意味で揃えることができません。
「妻と娘、領民の安全さえ守れればいい。師団長が最も適切だと思われる処置をしてください」
「わかりました、カーン伯爵。レティシア・カーンは俺の直属の部下ですし、その魔法の特異性から元より護衛対象でもあります。彼女の身を守ることは仕事の内ですから、なんの遠慮も必要ありません。差し当たってですが、彼らを俺が魔法で運びますので一度、カーン家の屋敷に戻りましょう。念のため屋敷の結界を強化しておきますので。そのあと彼らを、ひとまずスワロウ侯爵領へ運んで尋問したいと思います。一応、俺も襲われた対象には入っていますので当事者ですからね」
確かに馬車にはメルウィック様も乗っていました。当事者だと言えますね。
そうなるとスワロウ家が動いても不思議ではありません。
彼が狙われた可能性もあります。
ただ、メルウィック様が馬車に乗っていたことを彼らは知らなかったのでは?
なにせ彼一人にあっという間に返り討ちにされてしまいましたので。
流石にメルウィック様がいると知っていたら襲ってこないでしょう。
あと屋敷に結界って言いました? 張ってあるのですか、結界。
メルウィック様が張ったのですよね?
「黄金狙いの賊であれば、物事は単純なんですが」
「何か他に気になることでも?」
「……彼らの武具が〝良い物〟なんですよね」
武具が良い物? つまり、彼らは、ただの賊ではない?
ただの野盗の類ならば着ている物は、もっと統一感などなく、粗末な物のはずだと。
「……この襲撃にどこかの家が絡んでいる、と?」
「レティシアか、カーン家か、俺か。知っていて襲わせるほどの得が貴族にあるんですかね? 恨みなら察しようがないので仕方ありませんが」
どうなのでしょう?
黄金狙いで他家が私を誘拐する。ありそうな、なさそうな。
その家のために黄金を作らせるのでしょうか?
お金に困っている貴族が、我が家以外にも……?
「とりあえず護送だね。伯爵、少し土を持っていきますよ」
「土? かまわないが……」
メルウィック様がその場に膝を突き、片手で地面に触れる。
すると光が地面を伝い、賊の下まで伸びていった。そして。
「おお……?」
「まぁ!」
賊を背負うように現れたのは魔法の馬たち!
「つ、ツバメどころか馬まで生み出せるのですか、メルウィック様は?」
拘束された男たちはその姿のまま、馬の背に乗せられる。
「このぐらいはね」
……このぐらい、とは?
メルウィック様は、もしかして自身の才能がどれほどなのか、わかっていないのでは。
私が言うのもなんなのですけれど。
「すごいです」
「……レティシアも、そろそろ身を守る魔法を身につけないとね」
「え、それはもしかして」
「体調は良くなってきているだろう。そろそろ、魔法の訓練を始めてもいいと思う。キミの魔力量に合った魔法の使い方を見つければいいんだ。そうすれば黄金の魔法以外も使いこなせるはずだよ」
「は、はい! がんばります!」
不安な事件は起きましたが、私にはそれ以上に嬉しいことが起きるようです。
思えば【黄金魔法】しか使えないと思っていた私。
魔法を使う楽しさを知らなかったと言っていいでしょう。
ですが、メルウィック様が見せてくれた多彩な魔法は……使えるならば、きっと楽しそうだな、とそう思えたのです。
「あとは、と」
メルウィック様は、今度は魔法のお手紙? を作り始めました。
白い紙が一枚。サラサラと光と共にそこに文字が書き込まれます。
それを封筒に包むと、魔法のツバメが一匹現れ、足で掴んで飛び立っていきました。
「伝令、ですか?」
「うん、スワロウ家にね」
本当になんでもできますね、メルウィック様は。
落ち着いてから、改めて馬車に乗り屋敷へと戻りました。
帰路はメルウィック様が結界を張った状態で進みます。
捕まえた賊たちを運ぶ魔法の馬一団と一緒に移動……。
たぶん、目撃した人々がギョッとして驚いていますよねぇ。
無事に屋敷に着くとメルウィック様は屋敷の結界の点検と強化を始めました。
賊たちは拘束を緩めぬまま、屋敷の外に放置されています。
「レティシア」
「はい、メルウィック様」
「キミ、このまま……スワロウ家へ来ないかい?」
え? スワロウ侯爵家に、私が?
「屋敷の結界は強化した。最悪、この屋敷に引き篭もることもできる。だけど、彼らの狙いがキミだとするなら……できれば俺のそばにいてほしい。その方が確実にキミを守れるから」
「守って、くださるのですか?」
「ああ、レティシアを誰にもさらわれたくない。誰にも傷つけさせたくないんだ」
「──!」
カァーッと顔が茹であがるのを感じました。
鏡を見れば真っ赤に染まっていることでしょう……。
あれ? その。前々から、もしや、と思っていたのですけど。
それは希望的観測といいますか。
メルウィック様、私に好意が……あったり、なかったり?
「カーン伯爵。レティシアをスワロウ家に連れて行ってもかまいませんか」
お父様は二つ返事……はしませんでした。
とても真面目な顔をしたかと思うと、私の瞳を見つめます。
「……レティシア、お前はどうだ? お前がいいと思うなら私は止めないよ。少なくとも、スワロウ師団長のことを私たちは信用しているからね」
「そ、それは……」
決定権は私にあるそうです。
メルウィック様と共にスワロウ侯爵家へ?
ただでさえ家族ぐるみのお付き合いが続いた三週間でした。
その上で、となると。流石に噂が……広まってしまう……でも。
私は掴みかけている……かもしれない……幸福を手放したくありませんでした。
「私は──」