黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
16 スワロウ侯爵家
十五人の賊たちを運ぶ魔法のお馬さんたち。
私は、メルウィック様と共に馬車に乗り移動しています。
両親もおらず、二人きりの空間なわけですが、私たちの間には甘い空気など生まれませんでした。
というのも。
「はい、それ以上はダメ」
「あっ」
メルウィック様が私の前で形を取り始めていた魔法をかき乱して霧散させます。
はい、魔法の特訓中なのですよね、今。
緩やかな馬車の移動は、なかなかに集中できる環境だったのです。
「む、難しいですね」
「最初のうちはね。それにまだまだレティシアの魔法は手探りだから」
「はい」
私は魔法を使えるようになった頃から感覚で【黄金魔法】だけを使ってきました。
魔力を扱うことはできるのですが、その先で結実するのが、いつも黄金になってしまう、という感じです。
ただ、こうなるのは私だけではなく、貴族家系の中には家の特色となる魔法のみを極めるという方も、ちらほらいるそうで。
ある程度の攻撃能力や防御能力、見栄えが整えられればそれでいい。
というのが一般的な貴族の、魔法についての考え方なのです。
魔術師団が研究に時間を取ることからわかるように魔法とは研究・研鑽の先に強くなる技術。
私も貴族ではありますが、同時に王宮魔術師団の端くれ。
道筋が見えたのなら、やはり他の魔法を使ってみたく思います。
「黄金を生み出すこと自体に代償が必要というわけではないらしい。『生み出した黄金を世界に残す』という命令式に、どうしても対価を必要とするみたいだね」
「ええと?」
「対価を支払うことをやめても、すぐに消える黄金ならば生み出せる。これは今まで遺伝とか、得意・不得意の話かと思っていたけれど。個人ごとに生来、割り振られた属性がある、という考え方の方がいいのかな……?」
はて。メルウィック様は何に悩んでいるのでしょう?
「魔術師団は、当然だけど多くの貴族出身者が在籍している。家門の得意魔法を、その筋の者が得意とするのは自然な話だし、俺も疑問には思っていなかったんだけど」
「はい」
それもよく聞く話ですね。
「たとえば、マディール家の得意魔法は水魔法で、その出身の者も同じく水魔法を得意としている。血筋の影響はあると思うのだけど、彼らの生来の属性が『水』であり、覚えられる攻撃魔法も、防御魔法も『水』を起点にしている。それは得意だからじゃなくて本人の質がそうなんだ」
「水の攻撃魔法と防御魔法、ですか」
水球を相手にぶつけたり、魔法の壁・結界を生み出したりですね。
「これで『火』が生来の属性となる者は、同じ系統の魔法でも、それらが『火』になる」
火球、そして炎の壁の魔法とかですかね?
生来の属性が異なる二人が習得した魔法は本質的には同じもの。
ですが、生来の属性によって発現する現象が変わる……?
『壁の魔法』という同じ命令式を二人が使用すると、それぞれ水の壁と火の壁になる。
「と、なりますと。私の場合は……」
「『黄金』がレティシアの属性ということになるのかな。攻撃魔法も防御魔法も『黄金の』という前提になるってことさ」
ええ? なんだか、それは無駄に派手な気がしますね。
今さらかもしれせんけれど。
「基本的には『土』系の魔法を参考にして良さそうだね」
「なるほど」
大まかな分類の自然魔法。
黄金がどこに属するかと言えば、やはり『土』なのでしょうね。
とはいえ、風・火・土・水だけが魔法の属性ではありません。
メルウィック様なんて多種多様な魔法を使っていますしね。
「メルウィック様の生来の魔法属性は何になるのでしょう? 自分のではない他の属性が覚えられないというものでもないかと思いますが」
球・壁・結界などの基本形の魔法を使った場合、わかりやすく本人の属性で修飾される。
私の場合は『黄金の』魔法になるみたいです。
火球や水球は、いかにもな基本魔法かと思うのですが……私の場合、黄金の……。
むむむ。貴族令嬢として、あるまじき何かの気配を感じます。
私の基本攻撃魔法は棘に致しましょう。球は却下。
ええ、そうしましょう。金の針とか呪いが解けそうでいいですよね!
「俺の生来の魔法属性か。それは……風・火・土・水、もろもろ全部?」
「全部」
私などは『すごいなぁ』で済むのですが、聞く人が聞けば怒られるぐらいの才能ですよ。
「だいたいやればできたから……」
「メルウィック様」
それ以上はいけません。才能の暴力というものです。
「もしかして固定観念に囚われすぎている……といった言葉は、実は魔法の真理などではなく、ただのメルウィック様と、他の人たちの純粋な才能の違い……なのでは?」
「…………そうかもしれない」
メルウィック様、実は今まで色々とやらかしてきたのでは?
属性が『火』の人相手に、火と水の両方を出して『やればできるよ』とか。
眩しい笑顔でそう言ってみせるのです。なんという天才ハラスメント。
「才能がありすぎるというのも困ったものですね」
「本当にね。あと、レティシアも天才側だからね?」
「そうでした……」
実感はまるでないのですけどね?
出力ではメルウィック様を凌ぐと言われても、です。
魔法の特訓に集中していますと、馬車はあれよという間にスワロウ侯爵領へと入りました。
「あら。お馬さんたちが……」
賊を運んでいたお馬さんたちが違う道を進み始めました。
その先には騎士たちが?
「侯爵領の騎士だよ。事前に連絡しておいたからね。待っていたんだ。彼らを引き渡して、尋問した結果はスワロウ家で聞けるよ」
「そうなのですね。……少し怖いですが」
ほとんど何を感じることもなく片付いた事件。
メルウィック様が何から何まで処理してくださったので私は平気ですが。
彼らに黒幕がいるとしたら、それは誰なのか。知るのが恐ろしくなります。
「レティシアを危険な目には遭わせないよ。でも、ちゃんと自衛できる魔法を覚えてくれた方が安心できるかな?」
「はい。私にもできる魔法があるなら覚えてみたいです!」
黄金を生み出す魔法しか使えないと諦めていた私。
ですが、メルウィック様が私の今の実力と、明らかになった才能でできる魔法の習得を助けてくれることになりました。
……王宮魔術師団、第二師団長に、魔法の個人授業をしていただく。
とんでもないことです。
部下として指導を受けるのとも違う、破格の待遇でしょう。
力をたくさん込めようとがんばるのではなく、むしろ力を制限し、絞っていくイメージ。
それこそ針のように。
このイメージが、私が普通の魔法を使う鍵になります。
とうとう私はスワロウ侯爵家の屋敷へと到着しました。
馬車が停まり、先に降りたメルウィック様に手を引かれて降り立ちます。
「──ようこそ、レティシア。スワロウ侯爵家へ」
「は、はい……。お招きいただき、ありがとうございます……」
流石の私も緊張してしまいます。
そのまま、なぜか手を引かれた状態で進みました。そして玄関の扉が開かれて。
「ようこそ、スワロウ侯爵家へ。貴方がレティシアさんね。待っていたのよ。私はイゼッタ・スワロウ。よろしくね、レティシアさん」
「こ、侯爵夫人。は、はじめまして。カーン伯爵家の長女、レティシア・カーンでございます。め、メルウィック様、師団長の……部下をしております」
緊張して、毅然とした返事を返せませんでした! くぅ。
「ふふ、緊張しなくていいのよ、レティシアさん。本当によく来てくれたわ。そう、貴方がねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「ふふふ! さぁ、来てくださいな、レティシアさん」
「えっ」
私はイゼッタ夫人に手を引かれました?
そして侯爵邸の中へと招かれます。
「母上、レティシアを大切に扱ってくださるのでしょうね?」
「もちろんよ、当然でしょう? だって」
「母上」
「……ふふ、大丈夫よ、メルウィック、心配しないで」
「ありがとうございます。物事には順序がありますから」
「……?」
親子にしか通じないやり取りを交わしたあと。
私はイゼッタ夫人を代表としたスワロウ家の人々に、なぜかとても歓迎されました。
いえ、本当になぜ?
なんというか、チヤホヤといいますか。
とても私を褒めてくれますし。夫人に至っては常に機嫌良さそうに、私を見る目がその、愛娘でも見るかのようです……?
やっぱり、その。これはアレ、ですよね?
わかっています。お互いに貴族ですから。
でも、カーン伯爵家は名家とは言えないですので、メルウィック様からお相手にと希望する家も、たくさんありますでしょう?
政略結婚の対象としては適切ではないはず……。
なのですが?
「さぁ、レティシアさん。次はこれをつけてみてね?」
「え、あの。なんで私は着飾られているのでしょう……?」
「貴方が可愛くて綺麗で愛おしいからだわ。ふふ」
メルウィック様のお母様は、機嫌良く答えてくださるのでした。
私は、メルウィック様と共に馬車に乗り移動しています。
両親もおらず、二人きりの空間なわけですが、私たちの間には甘い空気など生まれませんでした。
というのも。
「はい、それ以上はダメ」
「あっ」
メルウィック様が私の前で形を取り始めていた魔法をかき乱して霧散させます。
はい、魔法の特訓中なのですよね、今。
緩やかな馬車の移動は、なかなかに集中できる環境だったのです。
「む、難しいですね」
「最初のうちはね。それにまだまだレティシアの魔法は手探りだから」
「はい」
私は魔法を使えるようになった頃から感覚で【黄金魔法】だけを使ってきました。
魔力を扱うことはできるのですが、その先で結実するのが、いつも黄金になってしまう、という感じです。
ただ、こうなるのは私だけではなく、貴族家系の中には家の特色となる魔法のみを極めるという方も、ちらほらいるそうで。
ある程度の攻撃能力や防御能力、見栄えが整えられればそれでいい。
というのが一般的な貴族の、魔法についての考え方なのです。
魔術師団が研究に時間を取ることからわかるように魔法とは研究・研鑽の先に強くなる技術。
私も貴族ではありますが、同時に王宮魔術師団の端くれ。
道筋が見えたのなら、やはり他の魔法を使ってみたく思います。
「黄金を生み出すこと自体に代償が必要というわけではないらしい。『生み出した黄金を世界に残す』という命令式に、どうしても対価を必要とするみたいだね」
「ええと?」
「対価を支払うことをやめても、すぐに消える黄金ならば生み出せる。これは今まで遺伝とか、得意・不得意の話かと思っていたけれど。個人ごとに生来、割り振られた属性がある、という考え方の方がいいのかな……?」
はて。メルウィック様は何に悩んでいるのでしょう?
「魔術師団は、当然だけど多くの貴族出身者が在籍している。家門の得意魔法を、その筋の者が得意とするのは自然な話だし、俺も疑問には思っていなかったんだけど」
「はい」
それもよく聞く話ですね。
「たとえば、マディール家の得意魔法は水魔法で、その出身の者も同じく水魔法を得意としている。血筋の影響はあると思うのだけど、彼らの生来の属性が『水』であり、覚えられる攻撃魔法も、防御魔法も『水』を起点にしている。それは得意だからじゃなくて本人の質がそうなんだ」
「水の攻撃魔法と防御魔法、ですか」
水球を相手にぶつけたり、魔法の壁・結界を生み出したりですね。
「これで『火』が生来の属性となる者は、同じ系統の魔法でも、それらが『火』になる」
火球、そして炎の壁の魔法とかですかね?
生来の属性が異なる二人が習得した魔法は本質的には同じもの。
ですが、生来の属性によって発現する現象が変わる……?
『壁の魔法』という同じ命令式を二人が使用すると、それぞれ水の壁と火の壁になる。
「と、なりますと。私の場合は……」
「『黄金』がレティシアの属性ということになるのかな。攻撃魔法も防御魔法も『黄金の』という前提になるってことさ」
ええ? なんだか、それは無駄に派手な気がしますね。
今さらかもしれせんけれど。
「基本的には『土』系の魔法を参考にして良さそうだね」
「なるほど」
大まかな分類の自然魔法。
黄金がどこに属するかと言えば、やはり『土』なのでしょうね。
とはいえ、風・火・土・水だけが魔法の属性ではありません。
メルウィック様なんて多種多様な魔法を使っていますしね。
「メルウィック様の生来の魔法属性は何になるのでしょう? 自分のではない他の属性が覚えられないというものでもないかと思いますが」
球・壁・結界などの基本形の魔法を使った場合、わかりやすく本人の属性で修飾される。
私の場合は『黄金の』魔法になるみたいです。
火球や水球は、いかにもな基本魔法かと思うのですが……私の場合、黄金の……。
むむむ。貴族令嬢として、あるまじき何かの気配を感じます。
私の基本攻撃魔法は棘に致しましょう。球は却下。
ええ、そうしましょう。金の針とか呪いが解けそうでいいですよね!
「俺の生来の魔法属性か。それは……風・火・土・水、もろもろ全部?」
「全部」
私などは『すごいなぁ』で済むのですが、聞く人が聞けば怒られるぐらいの才能ですよ。
「だいたいやればできたから……」
「メルウィック様」
それ以上はいけません。才能の暴力というものです。
「もしかして固定観念に囚われすぎている……といった言葉は、実は魔法の真理などではなく、ただのメルウィック様と、他の人たちの純粋な才能の違い……なのでは?」
「…………そうかもしれない」
メルウィック様、実は今まで色々とやらかしてきたのでは?
属性が『火』の人相手に、火と水の両方を出して『やればできるよ』とか。
眩しい笑顔でそう言ってみせるのです。なんという天才ハラスメント。
「才能がありすぎるというのも困ったものですね」
「本当にね。あと、レティシアも天才側だからね?」
「そうでした……」
実感はまるでないのですけどね?
出力ではメルウィック様を凌ぐと言われても、です。
魔法の特訓に集中していますと、馬車はあれよという間にスワロウ侯爵領へと入りました。
「あら。お馬さんたちが……」
賊を運んでいたお馬さんたちが違う道を進み始めました。
その先には騎士たちが?
「侯爵領の騎士だよ。事前に連絡しておいたからね。待っていたんだ。彼らを引き渡して、尋問した結果はスワロウ家で聞けるよ」
「そうなのですね。……少し怖いですが」
ほとんど何を感じることもなく片付いた事件。
メルウィック様が何から何まで処理してくださったので私は平気ですが。
彼らに黒幕がいるとしたら、それは誰なのか。知るのが恐ろしくなります。
「レティシアを危険な目には遭わせないよ。でも、ちゃんと自衛できる魔法を覚えてくれた方が安心できるかな?」
「はい。私にもできる魔法があるなら覚えてみたいです!」
黄金を生み出す魔法しか使えないと諦めていた私。
ですが、メルウィック様が私の今の実力と、明らかになった才能でできる魔法の習得を助けてくれることになりました。
……王宮魔術師団、第二師団長に、魔法の個人授業をしていただく。
とんでもないことです。
部下として指導を受けるのとも違う、破格の待遇でしょう。
力をたくさん込めようとがんばるのではなく、むしろ力を制限し、絞っていくイメージ。
それこそ針のように。
このイメージが、私が普通の魔法を使う鍵になります。
とうとう私はスワロウ侯爵家の屋敷へと到着しました。
馬車が停まり、先に降りたメルウィック様に手を引かれて降り立ちます。
「──ようこそ、レティシア。スワロウ侯爵家へ」
「は、はい……。お招きいただき、ありがとうございます……」
流石の私も緊張してしまいます。
そのまま、なぜか手を引かれた状態で進みました。そして玄関の扉が開かれて。
「ようこそ、スワロウ侯爵家へ。貴方がレティシアさんね。待っていたのよ。私はイゼッタ・スワロウ。よろしくね、レティシアさん」
「こ、侯爵夫人。は、はじめまして。カーン伯爵家の長女、レティシア・カーンでございます。め、メルウィック様、師団長の……部下をしております」
緊張して、毅然とした返事を返せませんでした! くぅ。
「ふふ、緊張しなくていいのよ、レティシアさん。本当によく来てくれたわ。そう、貴方がねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「ふふふ! さぁ、来てくださいな、レティシアさん」
「えっ」
私はイゼッタ夫人に手を引かれました?
そして侯爵邸の中へと招かれます。
「母上、レティシアを大切に扱ってくださるのでしょうね?」
「もちろんよ、当然でしょう? だって」
「母上」
「……ふふ、大丈夫よ、メルウィック、心配しないで」
「ありがとうございます。物事には順序がありますから」
「……?」
親子にしか通じないやり取りを交わしたあと。
私はイゼッタ夫人を代表としたスワロウ家の人々に、なぜかとても歓迎されました。
いえ、本当になぜ?
なんというか、チヤホヤといいますか。
とても私を褒めてくれますし。夫人に至っては常に機嫌良さそうに、私を見る目がその、愛娘でも見るかのようです……?
やっぱり、その。これはアレ、ですよね?
わかっています。お互いに貴族ですから。
でも、カーン伯爵家は名家とは言えないですので、メルウィック様からお相手にと希望する家も、たくさんありますでしょう?
政略結婚の対象としては適切ではないはず……。
なのですが?
「さぁ、レティシアさん。次はこれをつけてみてね?」
「え、あの。なんで私は着飾られているのでしょう……?」
「貴方が可愛くて綺麗で愛おしいからだわ。ふふ」
メルウィック様のお母様は、機嫌良く答えてくださるのでした。