あきない恋を、君と夜の街で。〜氷の貴公子の裏の顔〜
翌朝。私立鳳凰学園の校舎は、いつも通りの朝を迎えていた。
「おはよう、ひなた! 昨日のドラマ見た?」
「あ、うん! すごく面白かったね!」
登校したひなたは、教室でクラスメイトの女子たちといつものように他愛もない会話を交わしていた。昨夜の恐ろしい出来事も、バイクでの疾走も、夢だったのではないかと思えるほど平和な空間。
だが、教室内が一瞬にして静まり返った。
ガラリとドアが開き、生徒会長・春夏冬秋人が入ってきたからだ。
ビシッと着こなした完璧な制服、一切の乱れがない黒髪、そして世界全体を拒絶するかのような冷ややかな瞳。昼間の彼は、完璧に「氷の貴公子」へと戻っていた。
女子生徒たちがため息を漏らし、男子生徒たちが遠慮がちに道をあける。
秋人は誰とも目を合わせず、静かに自分の席へと向かって歩く。
その途中、秋人の視線が、一瞬だけひなたの席へと注がれた。
ひなたと秋人の視線が交差する。
ひなたは思わず緊張で体を強張らせたが、すぐに意を決して、周りにバレないように小さく小さく口角を上げ、ニッコリと笑ってみせた。
(おはよう、秋人くん)
言葉には出さず、目元だけで伝えた挨拶。
秋人の歩みが、ほんの一瞬だけ止まった。
彼の表情は相変わらず無表情のままだったが、ほんの少しだけ、彼の耳たぶが赤く染まったのをひなたは見逃さなかった。
秋人は何事もなかったかのように自分の席に座り、教科書を開いた。
だが、彼のブレザーのポケットの中には、昨夜ひなたから手渡されたキャラクター柄の小さなハンカチが、大切に仕舞い込まれていた。
指先でその布地に触れながら、秋人は窓の外の青空を見上げる。
(……田中ひなた)
胸の奥で、その名前を呟く。
絶対に関わってはいけないはずの、住む世界が違う少女。
けれど、彼女の温かい笑顔と「ヒーロー」という言葉が、秋人の凍りついた心に、消えることのない小さな灯火を点していた。
昼と夜、仮面と素顔。
ふたりだけの危険で甘い「秘密」を抱えたまま、新しい一日が静かに始まろうとしていた。
「おはよう、ひなた! 昨日のドラマ見た?」
「あ、うん! すごく面白かったね!」
登校したひなたは、教室でクラスメイトの女子たちといつものように他愛もない会話を交わしていた。昨夜の恐ろしい出来事も、バイクでの疾走も、夢だったのではないかと思えるほど平和な空間。
だが、教室内が一瞬にして静まり返った。
ガラリとドアが開き、生徒会長・春夏冬秋人が入ってきたからだ。
ビシッと着こなした完璧な制服、一切の乱れがない黒髪、そして世界全体を拒絶するかのような冷ややかな瞳。昼間の彼は、完璧に「氷の貴公子」へと戻っていた。
女子生徒たちがため息を漏らし、男子生徒たちが遠慮がちに道をあける。
秋人は誰とも目を合わせず、静かに自分の席へと向かって歩く。
その途中、秋人の視線が、一瞬だけひなたの席へと注がれた。
ひなたと秋人の視線が交差する。
ひなたは思わず緊張で体を強張らせたが、すぐに意を決して、周りにバレないように小さく小さく口角を上げ、ニッコリと笑ってみせた。
(おはよう、秋人くん)
言葉には出さず、目元だけで伝えた挨拶。
秋人の歩みが、ほんの一瞬だけ止まった。
彼の表情は相変わらず無表情のままだったが、ほんの少しだけ、彼の耳たぶが赤く染まったのをひなたは見逃さなかった。
秋人は何事もなかったかのように自分の席に座り、教科書を開いた。
だが、彼のブレザーのポケットの中には、昨夜ひなたから手渡されたキャラクター柄の小さなハンカチが、大切に仕舞い込まれていた。
指先でその布地に触れながら、秋人は窓の外の青空を見上げる。
(……田中ひなた)
胸の奥で、その名前を呟く。
絶対に関わってはいけないはずの、住む世界が違う少女。
けれど、彼女の温かい笑顔と「ヒーロー」という言葉が、秋人の凍りついた心に、消えることのない小さな灯火を点していた。
昼と夜、仮面と素顔。
ふたりだけの危険で甘い「秘密」を抱えたまま、新しい一日が静かに始まろうとしていた。
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