あきない恋を、君と夜の街で。〜氷の貴公子の裏の顔〜
第2話:月明かりのヘルメット
――ゴォオオオオオオンッ!!
路地裏の湿った空気を切り裂くような重低音が響き渡り、暗闇から放たれたヘッドライトの強烈な光が、ひなたの歪んだ視界を真っ白に染め上げた。
「な、なんだぁ!? バイク……っ!?」
急ブレーキの甲高い摩擦音が鳴り響き、黒い大型バイクが車体を斜めに滑らせながら、ひなたを拘束していたチンピラたちの目と鼻の先で完璧な制御のもと停車した。
エンジンの脈動がピタリと止まり、夜の静寂が戻ってくる。
バイクから降り立った人物は、頭にヘルメットすら装着していなかった。私服の革ジャンを羽織り、制服の胸元を大胆にはだけさせたその男は、落ちていた革ジャンを拾い上げることもせず、ただ冷酷な眼光でチンピラたちを射抜いた。
「あ……」
口を塞がれていた手が緩み、ひなたは声にならない息を漏らした。
自販機の青白い光に照らし出されたその横顔。整いすぎた目鼻立ち、透き通るような肌、そして乱れた漆黒の髪。
(春夏冬…… くん……!?)
間違いなかった。昼間、学校で「氷の貴公子」として誰も寄せ付けず、孤高の存在として君臨していた生徒会長・春夏冬秋人だった。
しかし、今の彼には学校での静謐で知的な雰囲気など欠片もなかった。全身から立ち上るのは、触れれば切れそうなほど鋭利な殺気と、夜の闇に塗れた荒々しい「不良」の空気。
「おいガキ、邪魔すんじゃ——」
チンピラの一人が威嚇するように一歩踏み出した瞬間、秋人の身体がしなった。
速すぎて目にも留まらない踏み込み。強烈な右フックが、ひなたの腕を掴んでいた男の頬を正確に打ち抜いた。バキッという肉と骨がぶつかる嫌な音が路地裏に響き渡り、男は声もなく吹っ飛んでコンクリートの壁に激しく叩きつけられた。
「ガハっ……!?」
「テメぇ、何しやがるっ!」
もう一人の男が懐からジャックナイフを取り出し、刃を光らせて秋人へ飛びかかる。
ひなたの喉から悲鳴が跳ね上がった。
「危ないっ!!」
だが、秋人は眉ひとつ動かさなかった。襲いかかるナイフの軌道を最小限の体さばきでかわすと、男の手首を固い万力のような力で掴み上げ、激しく捻り上げる。カチャンと音を立ててナイフがコンクリートの上に転がった。
そのまま間髪入れずに男の鳩尾へ強烈な膝蹴りを叩き込み、苦悶に顔を歪めた男の髪を掴んで地面へと叩きつけた。
「アガッ…… あ…… が……」
地面に伏してピクピクと痙攣する男を見下ろし、秋人は肩で静かに息をついた。拳には薄っすらと血が滲み、荒い息吐き出す胸元からは、隠しきれない冷気が溢れ出している。
「う、嘘だろ…… なんだコイツ…… 化け物かよ……!」
壁に激突していた男が、恐怖に顔を引きつらせながら這うように起き上がり、倒れた仲間を抱え上げて脱兎のごとく逃げ出していく。足音が夜の喧騒の中に消えていくと、路地裏には再び重苦しい静寂が訪れた。
路地裏の湿った空気を切り裂くような重低音が響き渡り、暗闇から放たれたヘッドライトの強烈な光が、ひなたの歪んだ視界を真っ白に染め上げた。
「な、なんだぁ!? バイク……っ!?」
急ブレーキの甲高い摩擦音が鳴り響き、黒い大型バイクが車体を斜めに滑らせながら、ひなたを拘束していたチンピラたちの目と鼻の先で完璧な制御のもと停車した。
エンジンの脈動がピタリと止まり、夜の静寂が戻ってくる。
バイクから降り立った人物は、頭にヘルメットすら装着していなかった。私服の革ジャンを羽織り、制服の胸元を大胆にはだけさせたその男は、落ちていた革ジャンを拾い上げることもせず、ただ冷酷な眼光でチンピラたちを射抜いた。
「あ……」
口を塞がれていた手が緩み、ひなたは声にならない息を漏らした。
自販機の青白い光に照らし出されたその横顔。整いすぎた目鼻立ち、透き通るような肌、そして乱れた漆黒の髪。
(春夏冬…… くん……!?)
間違いなかった。昼間、学校で「氷の貴公子」として誰も寄せ付けず、孤高の存在として君臨していた生徒会長・春夏冬秋人だった。
しかし、今の彼には学校での静謐で知的な雰囲気など欠片もなかった。全身から立ち上るのは、触れれば切れそうなほど鋭利な殺気と、夜の闇に塗れた荒々しい「不良」の空気。
「おいガキ、邪魔すんじゃ——」
チンピラの一人が威嚇するように一歩踏み出した瞬間、秋人の身体がしなった。
速すぎて目にも留まらない踏み込み。強烈な右フックが、ひなたの腕を掴んでいた男の頬を正確に打ち抜いた。バキッという肉と骨がぶつかる嫌な音が路地裏に響き渡り、男は声もなく吹っ飛んでコンクリートの壁に激しく叩きつけられた。
「ガハっ……!?」
「テメぇ、何しやがるっ!」
もう一人の男が懐からジャックナイフを取り出し、刃を光らせて秋人へ飛びかかる。
ひなたの喉から悲鳴が跳ね上がった。
「危ないっ!!」
だが、秋人は眉ひとつ動かさなかった。襲いかかるナイフの軌道を最小限の体さばきでかわすと、男の手首を固い万力のような力で掴み上げ、激しく捻り上げる。カチャンと音を立ててナイフがコンクリートの上に転がった。
そのまま間髪入れずに男の鳩尾へ強烈な膝蹴りを叩き込み、苦悶に顔を歪めた男の髪を掴んで地面へと叩きつけた。
「アガッ…… あ…… が……」
地面に伏してピクピクと痙攣する男を見下ろし、秋人は肩で静かに息をついた。拳には薄っすらと血が滲み、荒い息吐き出す胸元からは、隠しきれない冷気が溢れ出している。
「う、嘘だろ…… なんだコイツ…… 化け物かよ……!」
壁に激突していた男が、恐怖に顔を引きつらせながら這うように起き上がり、倒れた仲間を抱え上げて脱兎のごとく逃げ出していく。足音が夜の喧騒の中に消えていくと、路地裏には再び重苦しい静寂が訪れた。