消して、奪って、きみだけを
嘘をついて、自分自身を傷つけてまで涼にそばにいて欲しかった理由は、好きだからだったんだ。
鉛のような衝撃が落ちてきて、風が真横を通り過ぎるまで呼吸を忘れていた。
そうやって同じく我に返った様子の涼が、ますます困惑したように怪訝な表情を浮かべる。
「なに、言って……」
「篠崎くんのことが好き。……って、ことなんだと思う。初めてだからよく分からないけど。この人しかいない、とか、その人がほかの誰かを見てる姿が嫌だと思うのは、そういうことでしょう?」
美怜ちゃんらしい言葉だと思った。
希薄な人間関係の中で生きてきた彼女が、きっと初めて興味を持って、そばにいて欲しいと望んだのが涼だったのだろう。
「本当にそれだけだったの。あなたが疑うように、叶人の思惑のために近づいたとかそういうことじゃなくて……。それだけだったのに、うまくできなくて」
何気なく呼ばれた“叶人”という名前に一瞬戸惑った。
美怜ちゃんにしてはやけに親しげな呼び方だけれど、あの叶人くんのことを指しているのは間違いないはず。
そんなことを考えているうちに、彼女は踏み込んで距離を詰める。
「だから────」
次の瞬間、美怜ちゃんは涼に口づけた。
ネクタイを引っ張るようにして引き寄せ、唇を重ねた姿を信じられない気持ちで捉える。
「……っ」
ばくばくと暴れるような心臓に急き立てられ、慌てて立ち上がった。
逃げるように扉から校舎へ飛び込む。
見てはいけないものをふいに見てしまったような感覚で、混乱したまま廊下を進んだ。
先ほどの光景を頭から追い出そうとするほど、あとを追いかけるように絡みついてくる。
◆
「……っ、何してんだよ!」
ぐい、と押し返すようにして立原を引き剥がすと、想定していたよりあっさりと離れた。
手の甲で口を拭う俺を、不思議そうに見つめてくる。
「こうすれば気持ちが伝わるって……。ちがう? わたし、また間違えた?」
ことの重大さをまるで理解していないらしく、そう言って首を傾げている。
立原自身の意思なのか、若宮の入れ知恵なのか知らないが、どちらにしても最悪だ。
「……ふざけんな」
よりにもよって、羽衣の目の前であんなことをするなんて。
困惑が怒りへと昇華して、身体の表面は火傷するほど熱いのに、底は凍えるほど冷えきっていた。
きつく睨みつけると、戸惑ったように立原の目が揺れる。
「迷惑なんだよ! 勝手なことしやがって。二度と近づくな」