消して、奪って、きみだけを
涼が止まってくれたお陰でことなきを得たものの、力は到底及ばず、自力ではどうにもできなかった。
知らなかった。
自分がこんなにも非力で、男の子の力があんなにも強いということを。
涼が男の子だという当たり前の前提を意識してこなかったからだ。
「どうして謝るの? 羽衣は何も悪くないのに」
「でも、わたしのせいで……」
「羽衣のせいじゃないよ」
背中に添えられていた手が頭に移ったのが分かって、思わずいっそう強く彼にしがみついた。
『俺が好きなのはおまえなんだよ』
────いままで、まったく気づかなかった。
涼の想いも、その深さも。
そのせいでどんなに彼を振り回して傷つけてきてしまったか、考えるだけで胸が苦しくなってくる。
『だけど、そんな……。美怜ちゃんはあそこまでしたんだよ。本気なのに』
『……何だよ、それ。ひどいって言いたいのか?』
ショックを受けたようなその表情を思い出し、いまさら理解した。
こういうことだったんだ。
美怜ちゃんが言っていた、同情や偽善というものは。
撥ねつけられて当然だった。
あのときの彼女の気持ちを想像したらいたたまれない。
こんな自分が嫌になる。
何も見えていない、何も分かっていない、ばかなわたし。
「……みんないなくなっちゃった。叶人くん以外」
たまらず呟いたら、涙が伝い落ちていった。
涼も日和も、当たり前に一緒にいたはずなのにいつの間にか遠くなった。
もうふたりと元通りなんて無理だろう。
(もう……嫌だ)
関係が壊れて、大切だったものがあっけなく手からこぼれ落ちていく。
記憶も友だちも失い続けるわたしに残ったのは、叶人くんだけだ。
彼だけは失いたくない。
叶人くんまでいなくなってしまったら、わたしは正真正銘ひとりぼっちになる。
いっそ、こんな記憶なら消えてしまえば楽になるかもしれない。
涼の気持ちも知らないままの方が幸せだったかもしれない。
「怖いよ……ひとりにしないで」
ぎゅう、と感覚も分からなくなるくらい必死でしがみつく。
「叶人くんはいなくならないで。嫌いにならないで。お願いだから、そばにいて」
おさまったはずの震えが止まらなくなって、小さい子みたいに泣きながらそう言った。
顔を埋めるわたしを、彼はいっそう強く抱き締めてくれる。
「大丈夫……いなくならないし、そばにいる。嫌いになんてなるわけないでしょ? 僕だけは絶対に羽衣をひとりにしないよ」
わたしの不安や恐れのひとつひとつに答えてくれた叶人くんの優しい声に、心がほろほろと溶けていく。
こんなわたしを好きだと言ってくれる彼がいるなら、それ以上に望むことなんてもうなかった。