消して、奪って、きみだけを
叶人くんを信じたい。
余計なことなんて何も考えず、どんな雨風も凌いでくれる彼の腕の中で、ずっと甘い夢を見ていられたらきっと幸せ。
苦しむことも、傷つくこともない。
「分かったでしょ? 羽衣には僕がいれば十分だって」
「……うん、そうだね。わたしには叶人くんしかいない」
嫌なことは忘れたままでいい。
彼がそう望むなら、彼のためにももうやめよう────過去を思い出そうとする努力も、涼や日和のことで思い悩むのも。
そっと離れると、涙の粒が散ってきらめく視界で叶人くんを捉えた。
何だか幻想的でまどろんでいるみたいな心地がして、気づいたら心のままがこぼれていた。
「……大好きだよ」
見上げたまま頬を綻ばせると、一瞬目を見張った叶人くんが微笑んだ。
優しく顎をすくって口づけられる。
涼の行動を思い起こしたのはほんの一秒にも満たない短い時間で、瞬間的に覚えた痛みごとぜんぶ幸せで上書きされていった。
わたしと同じだけの、ううん、それ以上の想いを注がれるみたいなキスに安心してまた泣きそうになる。
叶人くんのいない世界なんて、もう考えられなくなっていた。
空っぽになった心が彼の想いで満たされていく。
そっと親指で頬を拭ってくれると、優しく頭を撫でられた。
「もう泣かないで、羽衣。……ノイズなんてぜんぶ忘れて、捨てればいいだけなんだから。僕ときみ以外、いらないよね?」
◆
「ちょっと!」
呆然としたまま立ち尽くしていた俺の背中を勢いよく誰かが叩いた。
そんなことをするのは日和くらいしかおらず、顔を上げると案の定だった。
「あんた、自分が何したか分かってんの? ずっとあんたのこと信じて応援してきたのに……あれは最悪」
衝撃と憤りを滲ませた様相からして、羽衣とのひと幕を目撃していたらしい。
どこから見られていたのか、非難するような口ぶりには返す言葉もなかった。
「……本当だよな。俺、さっきはどうかしてた」
羽衣を傷つけ、怖がらせた。
あんなの、一方的に気持ちを押しつけただけに過ぎない。
今度こそ失望じゃ済まないような裏切り行為だろう。
伝えるつもりなんて本当はなかったのに。
仮に伝えるときが来たとしても、あんな形では絶対になかったはずなのに。
俺の中で燻る若宮に対する嫉妬や疑念、苛立ちが導火線に火をつけた。
羽衣を失いたくない焦りと、俺が羽衣の眼中にないという事実を突きつけられたのに耐えられなくなって、理性を失ってしまった。