消して、奪って、きみだけを
●第2章 揺らぎ
教室に入って席につくと、鞄から教科書やノートを取り出す。
それを机の中に入れようとしたとき、かさ、と音がして何かに当たった手応えがあった。
(何だろう?)
昨日、何か忘れものでもしたっけ?
そんなことを考えながら手を入れてみると、それはメモと飴だった。
“元気なさそうだったから”
柄もない無機質なメモにはそれだけが記されていて、名前のない手紙みたいだった。
一緒に入っていた飴は苺柄の包装紙に包まれている。
(誰かな……。涼? 日和?)
わたしの好きなものを知っているみたいだし、何となくそんな気がした。
色々と思い悩んでいるわたしを励まそうとしてくれているのかもしれない。
その気遣いがうれしいと同時に微笑ましくて、丁寧に手紙を折りたたむと飴と一緒に鞄の中にしまっておいた。
「おはよ、羽衣ちゃん」
「あ、おはよう」
ちょうどそのとき、いつものようににこやかに声をかけてくれる高橋くんに笑い返す。
彼は自身の机からノートを持って歩み寄ってきた。
「ねぇ、漢文の課題ってやった? ちょっと分かんないところあって────」
「僕でよかったら教えるよ」
すっと割り込むように自然と混ざってきたのは叶人くんだった。
わたしと高橋くんとの間に、まるで壁みたいに立っている。
「いや……いいよ、自分でやるから」
「そう?」
興を削がれたみたいに、ふいと高橋くんはきびすを返した。
叶人くんがこちらを振り向き、何となく目で追うことすら阻まれる。
「おはよう、羽衣」
「あ、うん。おはよう……」
その笑顔を見た途端、直前まで高橋くんを気にかけていたことも忘れた。
放課後の教室で、涼や日和と話していた内容が蘇ってきたせいだ。
『見た目に騙されてるだけで、あいつ、思ったより執念深いやつだと思う。……いつも羽衣のことしか見てねぇし』
彼がわたしに会いたかった本当の目的は、復讐だったんじゃないか。
突飛だと思いつつも涼の言葉には妙な説得力があった。
たぶん、わたしの中でも違和感が払拭できないからだろう。
(でも、それなら……叶人くんのこの笑顔もぜんぶ嘘なの?)
とてもそうは見えないけれど、思い上がりじゃなければ、わたしへの態度が特別だというのには確かに同感だった。
微笑みの温度も眼差しの色も、それがいい意味か悪い意味かは読み取れないけれど明らかに“特別”。
「どうかした?」
つい窺うように、探るように見つめてしまっていて、はたと我に返った。
不思議そうに首を傾げる叶人くんに「ううん」と笑って誤魔化す。
それだけのつもりだったのに、どうしてか気づけば言葉を繋いでいた。
「あのね……ちょっとおかしなことがあったの」