伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

国立・八百万学園

それは、翌日のことだった。
高校生活に必要な物の準備を終わらせて、家族みんなで和気あいあいと会話していた時。
突然、リビングにチャイムの音が響いた。

「あら?何かしら……もしかして、お届け物?」

お母さんが不思議そうに首をかしげながら、廊下に出る。
ドアを開け、誰かと会話をした後……慌てた様子でリビングに戻ってきた。

「り、六花ちゃん!役員の人が、六花ちゃんにお話があるって……!」
「え……?私に!?」

三人で廊下に出ると、そこには複数人の男女がいた。
みんな、高級そうな黒スーツに身を包み、凛々しい表情で立っていた。
開いたままのドアからは道路に駐車してある高級車まで見える。
これだけで、只事じゃないと分かってしまった。

「白咲六花様で間違いございませんね?」

役員の人の言葉に頷く。
心の奥底で、嫌な予感がした。

「あ、あの……もしかして、うちの娘が何か不届きなことをしてしまったのでしょうか……?」

恐る恐るとした様子で役員の人に聞くお父さん。

不届きなことなんて、した覚えないよっ!

心の中で否定して、役員の人たちの様子を見る。
……怒っては、いなさそう。
心なしか穏やかな……柔らかな表情に見える。

お父さんの言葉に、役員の人たちは失笑して首を横に振る。

「いいえ、お父様。そのような悪い報告ではなく大変喜ばしい報告を伝えに参りました」

そう言い、役員の人が私に一通の封筒を渡してきた。
開けるように促され、中を見てみる。
一枚の薄い紙が入っていて……一番上には「特別推薦」という文字が見えた。

「あの、これは……?」

な、なんだろう?
特別推薦って……私は一体、何に推薦されたんだろう?

状況が分からず、首をかしげる私。
そんな私を見て、役員の人は優しく教えてくれた。

「おめでとうございます。貴女は『国立・八百万学園(こくりつ やおよろずがくえん)』に、国からの特別推薦で合格されました」

その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。
国立・八百万学園。
私みたいな一般人でも知っている超有名なエリート学園。
国内で唯一、あやかしと人間がともに通う学園。
あやかしならば誰でも入学可能。人間は国や組織が選んだ優秀な者のみが入学を許される、全寮制の聖域。


「えっ……な、何かの間違いじゃないんですか?」
「いいえ。貴方は確かに、国から選ばれました」


役員の人の真剣な眼差しを見て、嘘ではないのだと分かる。
詳しい選定のこととかは分からないけど……どうやら私は「特別推薦枠」として選ばれてしまったみたい。

八百万学園に入学することはとても名誉あることだと言われている。
でも、私は……あまりこの学園に、行きたくない。
寮生活になり家族と離れ離れになってしまうっていうのも理由の一つだけど……それ以外にも、問題がある。

その一つが、学園での生徒の比率。
あやかしのために作られた学園というだけあって、圧倒的に人の数が少ないのだ。
その比率は、なんと……8:2!
8があやかし。残りの2が人間。

このあやかしの数の多さから、巷では「あやかしの巣窟」や「あやかしの監獄」なんて言われている。

こんな仰々しい異名がついている場所で一人だなんて……怖すぎるよっ!

それに、私には誰にもバレちゃいけない「秘密」があるから。

ここには入学するのは、あまりにも危険すぎる。
なんとか断ろうとしたけど、役員の人は無慈悲にも会話を続けた。

「推薦は絶対なので、受かった高校ではなく必ず八百万学園へ入学してください。辞退は出来ませんのでお忘れなく」

無責任な言葉だけを残して、役員の人たちは行ってしまった。
残された私達は驚きのあまりしばらくは静まり返った。
だけど、すぐに両親が歓喜の声をあげる。

「凄いじゃない!八百万学園に入学できるなんてっ」
「あぁ……あの学園は設備も授業も最先端だって聞くし。いい学園生活を送れるはずだ」

二人が喜びの声を上げるなか、私だけは素直に喜ぶことが出来なかった。

普通の……誰もが経験する人生を送りたいと思っていた。
高校でも今まで通り、家から学校へ通い、勉強して、友達と一緒に帰ったり遊んだりして……そんな何気ない日常を過ごしていくのだと思っていた。

さっきも言った通り、八百万学園は家からも遠く、全寮制のため我が家から離れなくてはいけない。
つまり、一人暮らし。
アルバイトが可能だから、お金のことはなんとかなるけど……中学時代からずっと思い描いていた高校生活は、特別推薦の決定のお知らせとともに散ってしまった。

それからの私の日々はあっという間だった。
中学を卒業して、学園に持って行く必需品の準備や入学の支度、寮生活の準備。
そして、思い出作りの家族旅行など……最後の幸せなひとときは夢のように過ぎていった。






1ヶ月後。

桜が満開に咲き誇り、幻想的な光景が視界を埋める。
私は住み慣れた家を離れ、今日から寮生活。
しばらく、この家に帰ることも両親に会うこともできないと思うと……寂しい気持ちでいっぱいになる。

でも、応援してくれる家族の期待に答えれるように頑張らないとっ!

「忘れ物ない?大丈夫?」
「大丈夫だって……心配しすぎだよ」

お母さんは、私の荷物の隅々まで確認する。
相変わらず、心配性だなぁ……。

「なにか困ったことがあったら、お父さんに言うんだぞ!」

目を潤ませながら、心配してくれるお父さん。
こっちも変わらず親バカを発動していた。

私……これでも今日から高校生なんだけどな。そんなに心配されるほど子供っぽいかな?

「六花……!一つだけ。お願い、聞いてくれないか?」
「お願い?」

普段は私のお願いを聞いてくれるお父さんが、私にお願いするのは珍しい。
いいや……初めてかもしれない。

一体、どんなお願いだろう?

不思議に思い、首をかしげる私。

「ちょっとだけ待っててくれ!」

そう言い残し、階段を登っていった。
戻ってきたお父さんが持っていたのは……小さな段ボール。

「実は、推薦の知らせが来た時から準備していたんだ。高校ではこれをつけて通ってくれ」

足早に説明し、段ボールを開いた。
段ボールの中に入っていたのは……。

「え……?なに、これ?」

ボサボサの黒髪ウィッグに、大きなメガネ……それと、カラーコンタクト?
状況が分からず、フリーズする。
お父さんはと言うと、今まで見たことがないくらい真剣な表情で口を開く。

「今のままじゃ、可愛すぎて危ない!だから……せめてこれをつけて学園生活を送ること!それと、寮の部屋以外では外さない。これが、お父さんからのお願い……いいや、命令だ!」

め、命令って……。流石に、大げさすぎるよ。
たしかに、私は髪も目も色素の薄い、雪のような淡い水色だから、悪目立ちしやすいと思うけど……あまりにも両親が過保護すぎるような気がする。
い、いや……いつも通り、親バカを発動しているだけなんだろうけどっ。

「わ、分かったよ。ちゃんとつけていくね!」

お父さんの迫力に負けて、何度も頷く。
変装セットを受け取って、さっそく洗面所へ向かう。
すべてつけてみると、私の面影が完全になくなった。

「ど、どうかな?」

廊下に戻って、両親にお披露目すると、二人は私を見て目を見開いた。

「か、完璧だ……!六花の可愛さがしっかり消えている!」
「凄いわね……。でも、これでお母さんたちも安心だわ」

どうやら、お父さんとお母さんの許容範囲内に入っているらしく、納得してくれた様子。

と、とりあえず……高校生活はこの姿で過ごすことになったみたい。

大変そうだけど、出来る限り心配性の二人を安心させたいから……頑張ってこのまま学園に通うことに。


別れの時間を過ごしていると、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、家の前に以前と同じ黒塗りの高級車が止まった。

「白咲様。お迎えに参りました」

中から出てきたのは、私に特別推薦の知らせを渡してきた役員の人だった。
今日も高級スーツを身に纏っており、雰囲気だけでその辺りにいる一般人とは別格だった。

「じゃあ、行ってくるね」
「元気でね。たまには連絡してね」
「うん。分かったよ」

軽く別れの言葉を交わし、お迎えの車に乗る。
目的地は私がこれから通う八百万学園。
私が乗ったのを確認すると車が走り始める。
それと比例して両親の姿がどんどん小さくなっていく。

一人、見知らぬ場所へ行くのは緊張と不安で胸がドキドキする。

今日は入学式をして、後は自由行動だって聞いたけど……大丈夫かな?
寮生活ってどんな感じだろう……。そもそも、八百万学園ってどんな場所なんだろう?

頭の中でたくさんの不安を抱えながらも車は着実に目的地へ進んでいく。

何時間経っただろうか。
車が止まり、運転手の「目的地に到着しました」という声が聞こえる。
ドアを開けてもらい、車内から出てみると目の前の豪勢な正門が私を出迎える。

「うわぁ、大きい……」

学園についたのに私は門の前で立ち止まる。

あまりにも豪華な正門に驚きを隠せなかった。
本当にここは学校であっているのかと疑ってしまった。

怖気づきながら、ゆっくりと学園の中に入る。
そして、私は目の前の光景に固まってしまった。
目の前には、息を呑むほどの美しさを持った人達がたくさんいた。
この人間離れした美貌を持つ人たちが、あやかし。
いつ見ても、とっても綺麗だなぁっとつい、見惚れてしまった。

流石は国内随一のエリート校。
希少なあやかし達をこんなにいっぱい集められるなんて……それに、皆さん、強そう!
正確には分からないけど……直感がそう知らせてくる。

周りの生徒たちが次々と校舎へ入る中、私は入口で止まりそっと深呼吸をする。

どうしよう……緊張してきた。

この、あやかし達の巣窟で私の「秘密」が誰にもバレずに過ごせるのかな?
せめてこの学園で過ごす間は、平穏な毎日でありますように――
そう願って、校舎へ入る。



中に入ると、私はまたしても立ち止まってしまった。

ひ、広いっ……!

まだ、廊下なのに見たことない広さだったのでびっくりしてしまった。
しかも、ただ広いだけじゃなくてすごく豪華。
天井には学校では見たことがないシャンデリアがあって、廊下には高級感のある赤いカーペットまで敷いてあった。
学校なのに……どこかのお金持ちが住んでいそうなほど、立派で豪華な場所。

廊下だけでこれって……本当にどれだけお金使っているんだろう……。

きっと考えるだけで恐ろしいほどの額はかかっているはず。
そんな凄い場所に、こんなちんちくりんで何の才能も取り柄もない地味な私が居ていいのだろうかと不安になってしまう。

で、でも……推薦されたんだから、仕方ない!いつまでもマイナス思考じゃ駄目だよね……頑張ろうっ。

気持ちを切り替えて、再び歩き始める。

しばらく歩き続けると、人だかりが出来ている場所があった。

何の集まりなんだろう?

気になって、そっちへ行ってみると……掲示板に「クラス名簿」と書かれた紙が貼られていた。

あっ……。そういえば、私……まだ自分のクラスすら確認していないんだった!

人混みの中、なんとか掲示板の前に行き、自分の名前を探す。
探し始めて3分ぐらいして、ようやく自分の名前を見つけられた。
クラスはSクラス。

……って、えぇっ!?Sクラス?

驚きながらもう一度クラスを確認するけど、やっぱりSクラスだった。
でも、おかしい。
八百万学園のSクラスって……成績優秀者しか入れないエリート中のエリートがいるような場所だって、ホームページにも書かれていた。
なのに、私みたいな子がそんな場所に入れるなんて……何か、手違いでもあったのかな?
不思議に思いながら、私は自分のクラスの教室に向かったのだった。






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