伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜
1ーS
「うわ……凄い教室だなぁ」
教室に到着し、扉を開けて中に入り、今日何度目かの驚きの声を洩らしてしまった。
廊下を光景を見てからなんとなくわかっていたけれど……やっぱり教室もすごく豪華で素敵な場所だった。
外のレトロモダンなデザインとは違い、内装はモダンを基調にしたシンプルで安心する造りになっていた。
そのおかげだろうか。外の綺麗な景色がより一層美しく輝いて見えた。
「し、失礼しまぁすっ……」
恐る恐る自分の席に着き、座り込む。
先程から続く学校の迫力に目が眩みそうになる。
教室に行くまでにこんなに疲れるのは、人生で初めてだった。
机に顔を預けながら、目だけで教室を見渡す。
やっぱりあやかしだらけだ。
人間は指で数えられる程しかいない。
なんでそんなことが分かるのか……それは容姿にある。
あやかしは、必ずと言い切れるほど容姿端麗な人しかいない。
要するに美男美女しか生まれないらしい。
そのため、人間とあやかしが並んでいると……見ただけで区別がついてしまうのだ。
人間にとって大変だろうなぁ。
周りが美形すぎて辺りに星が散りばめられたかのような錯覚まで見えてしまう。
……って、あれ?でも、よく見たら人間の人たちも凄く、綺麗。
きっと街中で歩いていたら二度見しちゃうほど、容姿が整っていた。
な、なんか……私だけが、すごく地味で場違いな気がするっ!
いや……気じゃなくて、事実だ。
そう思っているのは、私だけではなかったみたいで……
「何...あの地味子?」
「推薦枠の人間か.....」
「それにしても、あの子本当に地味すぎ」
たくさんのひそひそとした声と笑い。そして、視線を感じる。
しかも、ほとんどが嫌悪的なもので好意的に思われていないのが明白に分かってしまった。
うっ……悲しい。けど、事実だから仕方ないよね。
こんなちんちくりんが皆さんの視界に入っちゃってすみません!
心の中で全力の謝罪をしながら、もう一回辺りを見渡す。
そう言えば……気になっていたけど、あやかしの皆さん……グループ作るの、早すぎませんか?
教室には、もう既に何人かの生徒が集まっていて親しげに話していた。
しかも、全員あやかし。
もしかしたら、内部生なのかな?
八百万学園は初等部からあるから……と言っても初等部から通えるのはあやかしだけらしいけど。
私も、お友だちが欲しいけど……今の状況を見てみるに、それは無理そう。
思わず、小さなため息を吐いてしまう。
そんな時、教室のドアが開く音と共に一人の男の人が入ってきた。
その瞬間、明るかった空気がピリッとしたような緊迫した空気に変わった。
「あれって……柊さまだよね?」
「嘘っ……あの柊さんと同じクラスなの!?」
「やべぇー。何も起こらないといいけど」
教室にいた生徒たちから、緊張と歓喜の声が聞こえる。
緊張しているのは……あやかしの人だけだった。
もしかして、あやかしの偉い人なのかな?
疑問を持ちながら、私はその人をじっと見つめる。
綺麗でサラサラな雪色の髪に、芯の通った真っ直ぐな紫色の瞳……そして、近寄りがたい威圧感を感じさせるオーラ。
初めて会うはずなのに……心がドキドキと素早く脈打つ。
会ったこと、ないはずなのに……。どうしてこんなに……懐かしさを感じるの?
なんとも言えない気持ちが、胸の中に溢れ出す。
拭いようのない違和感を抱きながら、ぼーっと見つめ続けていると……
「何見てんだよ」
「……え?」
咄嗟に遅れた返事をして、見上げるといつの間にか私の目の前に立っていた。
考え事をしていて気づかなかった。
私を見下ろすその瞳は、すごく冷たくて……背筋がゾッとした。
「聞こえなかったか?何見てんだって聞いてんだよ」
苛立ちを含んだ声を私にぶつけてくる。
た、確かに私が見つめ続けていたのが悪いけど……そんなに怒らなくても……。
返答に困っていると、周りから小さな声が聞こえてくる。
そして私は、次に発せられた言葉を聞いて思考が一時停止した。
「あぁーあいつ、終わったな。柊様に目をつけられるなんて」
「それな。あの柊さんだもんな。あの『氷花』様の眷属だったっていう……」
「生まれ変わりなんて信じられないけど……納得しかないもんね〜」
「それにしても、あの地味子なんなの。なんで、柊様と話しているのよ」
最後の方は、嫉妬を含んだ声だったけど……今は、そういうのはどうでもよくって……。
生徒たちの言葉、拭いようのない違和感、そして……私の先程から表現できなかった感情の正体。
あぁっ……また、会うことができた。
私の、大好きで大切な愛しい君に。
「ひーちゃん?」
いつの間にか、昔のあだ名を口にしていた。
私の声を、呼びかけを聞いたその子は……目を大きく見開いて私を凝視する。
次の瞬間……泣きそうな、悲しそうな……でも、喜びを噛み締めているような表情で私を見つめる。
「そんな……こんなこと、本当に……っ」
たくさんの感情を抑え込んだその子は、私を引き寄せ、強く強く抱きしめた。
ありったけの力を、腕に込めて。
しかし、それも一瞬のことですぐに私と離れて慌ただしい様子で謝る。
「す、すみませんっ!久しぶりに会えたのが嬉しくって……」
先程までの威圧的で近寄りがたい雰囲気とは違い、オドオドと返答に困っているその姿を見て、思わず笑ってしまった。
この笑いは、決して馬鹿にしたのではなく可愛すぎて出てきてしまったほっこり笑いだ。
「うん、本当に……久しぶりだね」
私も、喜びを隠しきれず声のトーンが一つ上がった。
だって、本当に久しぶりで……また、出逢えるなんて思わなかったから。
きっとこの子だって同じことを考えていたはず。
だけど、感動の再会の喜びに浸っている暇はなかった。
一連の流れを見ていたクラスメイトたちが、騒ぎ始めてしまったから。
「えっ……あの柊様が、謝った!?」
「しかも、あんな優しい雰囲気。今まで、見たことなかったのに……」
「き、聞き間違い……?今、柊様のこと、あだ名で呼んだ?」
「あの地味子、何者なの?」
クラスメイトたちの視線が、私とひーちゃんに集まる。
しかも、私への視線がほんの数人だけ……嫌悪的なものから好奇心に満ちたものに変わっていた。
き、気まずい。いや、それ以上に……恥ずかしいっ。
嬉しさのあまり、周りが見えずに抱きしめ合っていたなんて……礼儀のなっていない子って思われちゃったかも!
本当に……恥ずかしすぎる。
巻き込んじゃってごめんね、ひーちゃん。
顔を少しだけ俯けながら隣にいるひーちゃんを見る。
私の隣に立っているひーちゃんはというと、耳を真っ赤にしてクラスメイトに見られないように顔を背けていた。
しかし、この場の空気に耐えられなかったのか……
「少し、外で話そう」
そう言って、私の腕を引いて逃げるように教室から出るのだった。
引かれるまま連れてこられたのは、人気の少ない校舎裏。
辺りには小さくて可愛らしいお花が咲いている花壇だけしかなかった。
ようやく、ひーちゃんの足が止まり、掴んでいた腕を離してくれた。
そして、一言。
「主様!!先程のご無礼な態度大変失礼しましたっ!!」
大きな声が校舎裏に響き渡る。
見事なスライディング土下座まで決めて深々と謝罪をし始めるひーちゃん。
ふふっ、別に怒っていないのに。
昔からひーちゃんは、礼儀正しくて誰よりも優しい。
「いいよ。怒っていないから……顔、あげて?」
申し訳ない表情をしているひーちゃんを慰めて、会話を続ける。
「ねぇ……本当に、氷凛で合ってるんだよね?」
「はい、そのとおりです!」
元気よく返事を返したひーちゃんを見て、やっぱり私の知る彼で間違いなかった。
彼の名前は氷凛。
遠い昔からの仲で、私にとっては家族のように大切でかけがえのない存在。
忠実で誰よりも優しい心を持つひーちゃん。
そんな彼を、私は弟のように可愛がっていた。
「あの……これ、本当に夢じゃないんですよね?僕が、またっ……氷花様に会える日が来るなんて」
涙を浮かべ、震えた声で私に問いかけてくるひーちゃん。
今の言葉を聞いて、彼もまた私の正体にしっかりと気づいていることを確信する。
私が、家族にすら教えていない……重大で大切な「秘密」。
私の秘密の一個……それは、前世の記憶があること。
前世の私は「氷花」と呼ばれた、鬼のあやかしだった。
遥か昔の日本では、あやかし達は「悪」として人間たちに倒されてきた。
それがあまりにも理不尽で、苦しくて……悲しかった。
だから私は、前世で可哀想なあやかし達をたくさん助け続けた。
できるだけ多く、そして……できるだけ幸せに。
やれることは全部、やった。
傷ついた心を癒し、居場所を与え.....時には人間とも交渉や会議をひらいて。
この理不尽な世界で、あやかし達が少しでも平穏に生きられるように……全力を注いだ。
だけど、最後には……。
「……ょう……っ、氷花様!」
ひーちゃんの声で、意識が現実の世界に戻る。
目の前には心配そうに私を見つめるひーちゃんの顔があった。
「あ、ごめんね。少し、考え事しちゃってた」
「そうですか。なら……いいんですけど」
笑って誤魔化す私を見て、訝しげに見てきたけど特に何も言わないでくれた。
ほっと胸を撫で下ろしながら、止まっていた会話を続ける。
出来る限り明るい話題へと変えて。
「そ、そういえばひーちゃんの今の名前、聞いてもいい?」
少し、急な話題かもしれないど……ずっと気になっていた。
氷凛って名前は、前世のだから……今世でのひーちゃんの名前を、私は知らないのだ。
だから、聞いても……変、じゃないよね?
「あ、本当だ。すっかり自己紹介を忘れていました。」
えへへっと照れくさそうに笑うひーちゃんの姿は、前世と同じで……なんだか、凄く安心した。
「僕の今の名前は、柊 凛と申します」
今世での名前を聞いて、心の中で思わずうんうんっと頷いてしまう。
柊 凛……かぁ。
かっこよくて素敵なひーちゃんに、ぴったりな名前だ。
それに、偶然にも今世でも「ひ」から名前が始まるのであだ名は、今まで通りひーちゃんのままにしよっ!
「私も、自己紹介忘れてた。白咲 六花って言うの。これからもよろしくね!」
私が笑顔で自己紹介を終えると、ひーちゃんは穏やかな笑みでこちらを見つめていた。
久しぶりに見るその笑顔に、ドキッとしてしまった。
あれ?なんで私……こんなにドキってしちゃったんだろう!
久しぶりに会ったから、かな?
前世では、弟みたいに可愛かったのに……今世では、かっこいい。
昔とのギャップが凄すぎるよっ!
胸の高鳴りを、縋る思いでやってみた深呼吸で抑えこむ。
そんな私を見て、不思議そうに見つめてくるひーちゃん。
「どうしたんですか?」
「う、うんん……なんでもないよっ」
私はというと、笑顔で答えるので精一杯で……全然会話が進まらない。
ひーちゃんが一生懸命、話題を考えてくれている。
話す話題が決まったのか、口を開こうとした時。
ピンポーパーポーンっという機械音と共にマイクをつける音が聞こえた。
「1ーSの白咲様。今すぐ職員室に来てください。繰り返します――」
え……わ、私!?
身に覚えのない呼び出しに頭がパニック状態になる。
私……なにかしちゃったかな?
思い当たることは、一個もない。
今日入学したばかりで……それに、今の今までひーちゃんとお喋りしていただけだし……。
いや……今は、そんなこと気にしている場合じゃないし、考えても仕方ないよね。
とりあえず、職員室に行こうっ!
「ごめんね、ひーちゃん!私、ちょっと職員室に行ってくるねっ」
私は、何か言いたそうなひーちゃんを置き去りにし、急ぎ足で職員室に向かったのだった。
教室に到着し、扉を開けて中に入り、今日何度目かの驚きの声を洩らしてしまった。
廊下を光景を見てからなんとなくわかっていたけれど……やっぱり教室もすごく豪華で素敵な場所だった。
外のレトロモダンなデザインとは違い、内装はモダンを基調にしたシンプルで安心する造りになっていた。
そのおかげだろうか。外の綺麗な景色がより一層美しく輝いて見えた。
「し、失礼しまぁすっ……」
恐る恐る自分の席に着き、座り込む。
先程から続く学校の迫力に目が眩みそうになる。
教室に行くまでにこんなに疲れるのは、人生で初めてだった。
机に顔を預けながら、目だけで教室を見渡す。
やっぱりあやかしだらけだ。
人間は指で数えられる程しかいない。
なんでそんなことが分かるのか……それは容姿にある。
あやかしは、必ずと言い切れるほど容姿端麗な人しかいない。
要するに美男美女しか生まれないらしい。
そのため、人間とあやかしが並んでいると……見ただけで区別がついてしまうのだ。
人間にとって大変だろうなぁ。
周りが美形すぎて辺りに星が散りばめられたかのような錯覚まで見えてしまう。
……って、あれ?でも、よく見たら人間の人たちも凄く、綺麗。
きっと街中で歩いていたら二度見しちゃうほど、容姿が整っていた。
な、なんか……私だけが、すごく地味で場違いな気がするっ!
いや……気じゃなくて、事実だ。
そう思っているのは、私だけではなかったみたいで……
「何...あの地味子?」
「推薦枠の人間か.....」
「それにしても、あの子本当に地味すぎ」
たくさんのひそひそとした声と笑い。そして、視線を感じる。
しかも、ほとんどが嫌悪的なもので好意的に思われていないのが明白に分かってしまった。
うっ……悲しい。けど、事実だから仕方ないよね。
こんなちんちくりんが皆さんの視界に入っちゃってすみません!
心の中で全力の謝罪をしながら、もう一回辺りを見渡す。
そう言えば……気になっていたけど、あやかしの皆さん……グループ作るの、早すぎませんか?
教室には、もう既に何人かの生徒が集まっていて親しげに話していた。
しかも、全員あやかし。
もしかしたら、内部生なのかな?
八百万学園は初等部からあるから……と言っても初等部から通えるのはあやかしだけらしいけど。
私も、お友だちが欲しいけど……今の状況を見てみるに、それは無理そう。
思わず、小さなため息を吐いてしまう。
そんな時、教室のドアが開く音と共に一人の男の人が入ってきた。
その瞬間、明るかった空気がピリッとしたような緊迫した空気に変わった。
「あれって……柊さまだよね?」
「嘘っ……あの柊さんと同じクラスなの!?」
「やべぇー。何も起こらないといいけど」
教室にいた生徒たちから、緊張と歓喜の声が聞こえる。
緊張しているのは……あやかしの人だけだった。
もしかして、あやかしの偉い人なのかな?
疑問を持ちながら、私はその人をじっと見つめる。
綺麗でサラサラな雪色の髪に、芯の通った真っ直ぐな紫色の瞳……そして、近寄りがたい威圧感を感じさせるオーラ。
初めて会うはずなのに……心がドキドキと素早く脈打つ。
会ったこと、ないはずなのに……。どうしてこんなに……懐かしさを感じるの?
なんとも言えない気持ちが、胸の中に溢れ出す。
拭いようのない違和感を抱きながら、ぼーっと見つめ続けていると……
「何見てんだよ」
「……え?」
咄嗟に遅れた返事をして、見上げるといつの間にか私の目の前に立っていた。
考え事をしていて気づかなかった。
私を見下ろすその瞳は、すごく冷たくて……背筋がゾッとした。
「聞こえなかったか?何見てんだって聞いてんだよ」
苛立ちを含んだ声を私にぶつけてくる。
た、確かに私が見つめ続けていたのが悪いけど……そんなに怒らなくても……。
返答に困っていると、周りから小さな声が聞こえてくる。
そして私は、次に発せられた言葉を聞いて思考が一時停止した。
「あぁーあいつ、終わったな。柊様に目をつけられるなんて」
「それな。あの柊さんだもんな。あの『氷花』様の眷属だったっていう……」
「生まれ変わりなんて信じられないけど……納得しかないもんね〜」
「それにしても、あの地味子なんなの。なんで、柊様と話しているのよ」
最後の方は、嫉妬を含んだ声だったけど……今は、そういうのはどうでもよくって……。
生徒たちの言葉、拭いようのない違和感、そして……私の先程から表現できなかった感情の正体。
あぁっ……また、会うことができた。
私の、大好きで大切な愛しい君に。
「ひーちゃん?」
いつの間にか、昔のあだ名を口にしていた。
私の声を、呼びかけを聞いたその子は……目を大きく見開いて私を凝視する。
次の瞬間……泣きそうな、悲しそうな……でも、喜びを噛み締めているような表情で私を見つめる。
「そんな……こんなこと、本当に……っ」
たくさんの感情を抑え込んだその子は、私を引き寄せ、強く強く抱きしめた。
ありったけの力を、腕に込めて。
しかし、それも一瞬のことですぐに私と離れて慌ただしい様子で謝る。
「す、すみませんっ!久しぶりに会えたのが嬉しくって……」
先程までの威圧的で近寄りがたい雰囲気とは違い、オドオドと返答に困っているその姿を見て、思わず笑ってしまった。
この笑いは、決して馬鹿にしたのではなく可愛すぎて出てきてしまったほっこり笑いだ。
「うん、本当に……久しぶりだね」
私も、喜びを隠しきれず声のトーンが一つ上がった。
だって、本当に久しぶりで……また、出逢えるなんて思わなかったから。
きっとこの子だって同じことを考えていたはず。
だけど、感動の再会の喜びに浸っている暇はなかった。
一連の流れを見ていたクラスメイトたちが、騒ぎ始めてしまったから。
「えっ……あの柊様が、謝った!?」
「しかも、あんな優しい雰囲気。今まで、見たことなかったのに……」
「き、聞き間違い……?今、柊様のこと、あだ名で呼んだ?」
「あの地味子、何者なの?」
クラスメイトたちの視線が、私とひーちゃんに集まる。
しかも、私への視線がほんの数人だけ……嫌悪的なものから好奇心に満ちたものに変わっていた。
き、気まずい。いや、それ以上に……恥ずかしいっ。
嬉しさのあまり、周りが見えずに抱きしめ合っていたなんて……礼儀のなっていない子って思われちゃったかも!
本当に……恥ずかしすぎる。
巻き込んじゃってごめんね、ひーちゃん。
顔を少しだけ俯けながら隣にいるひーちゃんを見る。
私の隣に立っているひーちゃんはというと、耳を真っ赤にしてクラスメイトに見られないように顔を背けていた。
しかし、この場の空気に耐えられなかったのか……
「少し、外で話そう」
そう言って、私の腕を引いて逃げるように教室から出るのだった。
引かれるまま連れてこられたのは、人気の少ない校舎裏。
辺りには小さくて可愛らしいお花が咲いている花壇だけしかなかった。
ようやく、ひーちゃんの足が止まり、掴んでいた腕を離してくれた。
そして、一言。
「主様!!先程のご無礼な態度大変失礼しましたっ!!」
大きな声が校舎裏に響き渡る。
見事なスライディング土下座まで決めて深々と謝罪をし始めるひーちゃん。
ふふっ、別に怒っていないのに。
昔からひーちゃんは、礼儀正しくて誰よりも優しい。
「いいよ。怒っていないから……顔、あげて?」
申し訳ない表情をしているひーちゃんを慰めて、会話を続ける。
「ねぇ……本当に、氷凛で合ってるんだよね?」
「はい、そのとおりです!」
元気よく返事を返したひーちゃんを見て、やっぱり私の知る彼で間違いなかった。
彼の名前は氷凛。
遠い昔からの仲で、私にとっては家族のように大切でかけがえのない存在。
忠実で誰よりも優しい心を持つひーちゃん。
そんな彼を、私は弟のように可愛がっていた。
「あの……これ、本当に夢じゃないんですよね?僕が、またっ……氷花様に会える日が来るなんて」
涙を浮かべ、震えた声で私に問いかけてくるひーちゃん。
今の言葉を聞いて、彼もまた私の正体にしっかりと気づいていることを確信する。
私が、家族にすら教えていない……重大で大切な「秘密」。
私の秘密の一個……それは、前世の記憶があること。
前世の私は「氷花」と呼ばれた、鬼のあやかしだった。
遥か昔の日本では、あやかし達は「悪」として人間たちに倒されてきた。
それがあまりにも理不尽で、苦しくて……悲しかった。
だから私は、前世で可哀想なあやかし達をたくさん助け続けた。
できるだけ多く、そして……できるだけ幸せに。
やれることは全部、やった。
傷ついた心を癒し、居場所を与え.....時には人間とも交渉や会議をひらいて。
この理不尽な世界で、あやかし達が少しでも平穏に生きられるように……全力を注いだ。
だけど、最後には……。
「……ょう……っ、氷花様!」
ひーちゃんの声で、意識が現実の世界に戻る。
目の前には心配そうに私を見つめるひーちゃんの顔があった。
「あ、ごめんね。少し、考え事しちゃってた」
「そうですか。なら……いいんですけど」
笑って誤魔化す私を見て、訝しげに見てきたけど特に何も言わないでくれた。
ほっと胸を撫で下ろしながら、止まっていた会話を続ける。
出来る限り明るい話題へと変えて。
「そ、そういえばひーちゃんの今の名前、聞いてもいい?」
少し、急な話題かもしれないど……ずっと気になっていた。
氷凛って名前は、前世のだから……今世でのひーちゃんの名前を、私は知らないのだ。
だから、聞いても……変、じゃないよね?
「あ、本当だ。すっかり自己紹介を忘れていました。」
えへへっと照れくさそうに笑うひーちゃんの姿は、前世と同じで……なんだか、凄く安心した。
「僕の今の名前は、柊 凛と申します」
今世での名前を聞いて、心の中で思わずうんうんっと頷いてしまう。
柊 凛……かぁ。
かっこよくて素敵なひーちゃんに、ぴったりな名前だ。
それに、偶然にも今世でも「ひ」から名前が始まるのであだ名は、今まで通りひーちゃんのままにしよっ!
「私も、自己紹介忘れてた。白咲 六花って言うの。これからもよろしくね!」
私が笑顔で自己紹介を終えると、ひーちゃんは穏やかな笑みでこちらを見つめていた。
久しぶりに見るその笑顔に、ドキッとしてしまった。
あれ?なんで私……こんなにドキってしちゃったんだろう!
久しぶりに会ったから、かな?
前世では、弟みたいに可愛かったのに……今世では、かっこいい。
昔とのギャップが凄すぎるよっ!
胸の高鳴りを、縋る思いでやってみた深呼吸で抑えこむ。
そんな私を見て、不思議そうに見つめてくるひーちゃん。
「どうしたんですか?」
「う、うんん……なんでもないよっ」
私はというと、笑顔で答えるので精一杯で……全然会話が進まらない。
ひーちゃんが一生懸命、話題を考えてくれている。
話す話題が決まったのか、口を開こうとした時。
ピンポーパーポーンっという機械音と共にマイクをつける音が聞こえた。
「1ーSの白咲様。今すぐ職員室に来てください。繰り返します――」
え……わ、私!?
身に覚えのない呼び出しに頭がパニック状態になる。
私……なにかしちゃったかな?
思い当たることは、一個もない。
今日入学したばかりで……それに、今の今までひーちゃんとお喋りしていただけだし……。
いや……今は、そんなこと気にしている場合じゃないし、考えても仕方ないよね。
とりあえず、職員室に行こうっ!
「ごめんね、ひーちゃん!私、ちょっと職員室に行ってくるねっ」
私は、何か言いたそうなひーちゃんを置き去りにし、急ぎ足で職員室に向かったのだった。