桃と伊吹の、ドキドキ♥️ナゾトキFile
【ナゾトキ】
タマは、私に駆け寄り、黒猫のペンケースを奪うと、なぜか再び私に返した。
「ごめん、本当はこうやってアタシから返さなくちゃいけなかったんだ……ほうとうに、ごめんなさい」
そう言って頭を下げると、わっと泣き出し、顔を両手で押さえてしゃがみこんでしまった。
彼女は、泣きじゃくりながら、途切れとぎれに今までのことを話してくれた。
……多分ね、焼きもちだったと思う。
桃、塾で出会って間もない男の子と親し気に話してて。
アタシ、その中に入っていけなかった。
おかしいよね。自分でも積極的な陽キャだと思ってたのに。
それで、なんか我慢できなくなって……ほんとうにゴメン……二人で話してたペンケースを盗ったの。
そして、消しゴムだけ取り出して、伊吹君のトートバックに投げ入れた……ほんとうにゴメン。
だから……黒猫ちゃんのペンケース、あの時からずっとアタシが持ったままだった。
いつか返そう返そう、と思ってたけど、ずっと返せなかった。
いつか話そう話そう、と思ってたけど、ずっと返せなかった。
……二人とも、ほんとうにごめんなさい。
それだけ話すと、タマは再び大泣きした。
私は彼女をゆっくりと立ち上がらせ、両腕で抱いた。
「話してくれて、ありがとう……今までずっと、辛かったよね……もういいよ、忘れよう」
「そんな簡単に許さないで! だって、おまけにアタシ、すぐわかったんだから」
「え、何を?」
「入学式の時、桃と並んで立っていた伊吹君……あの時の塾の男の子だって」
「そ、そうなの?」
「それなのに……また言えなかった、伊吹にも謝れなかった」
私はちっとも気づいてなかった。タマが伊吹君のことを憶えていたのは、よっぽどあの時のことを後悔していたに違いない。
「実は昨日、タマちゃんから相談を受けたんだ」
伊吹君が私たちのそばに寄ってきた。
……昨日って、二人を中庭で見かけた時のこと?
「全部話してくれた。そして僕に謝ってくれた。そして桃ちゃんにも、きっと僕のことを思い出すから、その前に正直に打ち明けるって」
「……でもさっき、なんで伊吹君、ペンケースを持ってて、私に謝ったの?」
その辺がどうも解せなかった。
「正直、迷ったんだ。
……桃ちゃんのことだから、タマちゃんがあの時のことをちゃんと話せば許してくれると思っったけど。
二人はつき合いが長い友達同士なんだから、もし、今さらこんなことで、友情にヒビが入ってしまってはいけない。
……僕はまだつきあいは短いんだし……モモちゃんが推理したように、僕が盗ったことにしておいた方がいいんじゃないかって。
昨日、タマちゃんはペンケースを持っていたから、僕はそれを受け取り……というか奪い取った」
それで今、こういうことになっているのか……
中庭での昨日の二人の会話を思い出した。
"絶対に気づくよ……だから" "桃ちゃんには言っちゃだめだ"
「なんだ……そういうことか」
私の口から言葉が漏れた。
「え?」伊吹君が反応する。
「昨日、二人を中庭で見かけたんだけど、てっきり二人はおつき合いしているのかと思った」
「「ええー!!」」
タマも顔を上げてびっくりしている。
「タマのこと、許すに決まってるでしょ!……だって私たち、伊吹君が言った通り、つき合い長いんだから」
彼女の瞳からまた涙がこぼれる。
私は彼女から両腕を解いて、伊吹君と向き合う。
「伊吹君……ごめん……いっぱい謝らなくちゃいけないね」
「え?」
「ごめんなさい……入学する前、制服の採寸の時に君のことを覚えてなくて……きっと私のことは覚えてたんでしょう? 濡れ衣を着せた奴だって。もしかしたら、塾でまわりの女の子と話しているのを聞いて、私の誕生日を知っていたのかも知れないね。
ごめんなさい……伊吹君とタマ、私に黙ってつき合ってると勘違いしてた……あれ、ひょっとして勘違いじゃない?
ごめんなさい……私、塾の教室のみんなの前で、君を犯人呼ばわりした……ちょっといい気になって……そして君は塾に来なくなった。謝ろうにも謝れなかった……ずっと心のどこかで後悔していた……そして思ったんだ……私、ミステリーが好きなんだけど……謎解きが好きなんだけど、謎解きをしちゃいけない時もあるんだって。もし謎が解けたとしても、それで誰かを傷つくのなら、迷宮入りのままの方がずっといいんだって」
伊吹君が私に一歩寄って両片に手を置いて言った。
「桃ちゃん、君が謝ることなんか何もないよ……君のこと、ずっと覚えていたのは、その……塾で会った時、可愛いなて思ったから」
「え⁉」
「それから、タマちゃんとコソコソと話なんかしてごめん……はっきり言っておく。僕は桃ちゃんのことが好きだ」
「ええええええ!!!!!!!」
「あと、僕があの塾に行かなくなったのは、君のせいじゃない。親の転勤が急に決まって、僕も姉さんも急に転校してしまったからなんだ。引っ越しの準備なんかもいろいろあったしね。結局またこの街に戻ってきたけど」
私は、伊吹君の二番目の発言に衝撃を受け、三番目の話は半分くらいしか耳に入ってこなかった。
で、自分でもどうしてそうなったかわからないけど、声をあげて泣いた……多分、申し訳ないのと、安心したのと、感激したのがごちゃごちゃに混ざって泣いてしまったんだと思う。
今度は私がタマに抱きかかえられた。
「桃、伊吹君を盗ったりなんかしないよ。アッタリマエじゃない! 恋泥棒は重罪だよ」
そんなキザなことを言って、彼女も再び泣き始めた。
バタンとドアが開閉する大きな音がした。
部屋に入ってきたのは、葉月会長さんだ。
顔を上げると、伊吹君がオロオロアタフタしていた。
「ほう、女の子二人を泣かせるとは、弟ながら隅におけないな」
「葉月姉さん……これには話すと長い訳が……」
「そんなこと、どうでもいい」
弟の言葉をさえぎると、葉月先輩は私の顔をじっと見つめた。
「小林桃君」
「は、はい」
「うちの弟、明智伊吹と名コンビとなって――二人の苗字は、探偵と助手が入れ替わっているような気もするが――この学校のミステリーを解き明かして、素敵な学校にしていってくれ」
「……はい!」
涙声ながら、私は力強く答えた。
会長さんは満足そうに微笑み、弟の伊吹君に再び向き直った。
「伊吹……心しておくように」
「はい?」
「桃君との恋を『迷宮入り』にしたら、ただでは済まないからな!」
「ハ……ハイ」
(おしまい)
タマは、私に駆け寄り、黒猫のペンケースを奪うと、なぜか再び私に返した。
「ごめん、本当はこうやってアタシから返さなくちゃいけなかったんだ……ほうとうに、ごめんなさい」
そう言って頭を下げると、わっと泣き出し、顔を両手で押さえてしゃがみこんでしまった。
彼女は、泣きじゃくりながら、途切れとぎれに今までのことを話してくれた。
……多分ね、焼きもちだったと思う。
桃、塾で出会って間もない男の子と親し気に話してて。
アタシ、その中に入っていけなかった。
おかしいよね。自分でも積極的な陽キャだと思ってたのに。
それで、なんか我慢できなくなって……ほんとうにゴメン……二人で話してたペンケースを盗ったの。
そして、消しゴムだけ取り出して、伊吹君のトートバックに投げ入れた……ほんとうにゴメン。
だから……黒猫ちゃんのペンケース、あの時からずっとアタシが持ったままだった。
いつか返そう返そう、と思ってたけど、ずっと返せなかった。
いつか話そう話そう、と思ってたけど、ずっと返せなかった。
……二人とも、ほんとうにごめんなさい。
それだけ話すと、タマは再び大泣きした。
私は彼女をゆっくりと立ち上がらせ、両腕で抱いた。
「話してくれて、ありがとう……今までずっと、辛かったよね……もういいよ、忘れよう」
「そんな簡単に許さないで! だって、おまけにアタシ、すぐわかったんだから」
「え、何を?」
「入学式の時、桃と並んで立っていた伊吹君……あの時の塾の男の子だって」
「そ、そうなの?」
「それなのに……また言えなかった、伊吹にも謝れなかった」
私はちっとも気づいてなかった。タマが伊吹君のことを憶えていたのは、よっぽどあの時のことを後悔していたに違いない。
「実は昨日、タマちゃんから相談を受けたんだ」
伊吹君が私たちのそばに寄ってきた。
……昨日って、二人を中庭で見かけた時のこと?
「全部話してくれた。そして僕に謝ってくれた。そして桃ちゃんにも、きっと僕のことを思い出すから、その前に正直に打ち明けるって」
「……でもさっき、なんで伊吹君、ペンケースを持ってて、私に謝ったの?」
その辺がどうも解せなかった。
「正直、迷ったんだ。
……桃ちゃんのことだから、タマちゃんがあの時のことをちゃんと話せば許してくれると思っったけど。
二人はつき合いが長い友達同士なんだから、もし、今さらこんなことで、友情にヒビが入ってしまってはいけない。
……僕はまだつきあいは短いんだし……モモちゃんが推理したように、僕が盗ったことにしておいた方がいいんじゃないかって。
昨日、タマちゃんはペンケースを持っていたから、僕はそれを受け取り……というか奪い取った」
それで今、こういうことになっているのか……
中庭での昨日の二人の会話を思い出した。
"絶対に気づくよ……だから" "桃ちゃんには言っちゃだめだ"
「なんだ……そういうことか」
私の口から言葉が漏れた。
「え?」伊吹君が反応する。
「昨日、二人を中庭で見かけたんだけど、てっきり二人はおつき合いしているのかと思った」
「「ええー!!」」
タマも顔を上げてびっくりしている。
「タマのこと、許すに決まってるでしょ!……だって私たち、伊吹君が言った通り、つき合い長いんだから」
彼女の瞳からまた涙がこぼれる。
私は彼女から両腕を解いて、伊吹君と向き合う。
「伊吹君……ごめん……いっぱい謝らなくちゃいけないね」
「え?」
「ごめんなさい……入学する前、制服の採寸の時に君のことを覚えてなくて……きっと私のことは覚えてたんでしょう? 濡れ衣を着せた奴だって。もしかしたら、塾でまわりの女の子と話しているのを聞いて、私の誕生日を知っていたのかも知れないね。
ごめんなさい……伊吹君とタマ、私に黙ってつき合ってると勘違いしてた……あれ、ひょっとして勘違いじゃない?
ごめんなさい……私、塾の教室のみんなの前で、君を犯人呼ばわりした……ちょっといい気になって……そして君は塾に来なくなった。謝ろうにも謝れなかった……ずっと心のどこかで後悔していた……そして思ったんだ……私、ミステリーが好きなんだけど……謎解きが好きなんだけど、謎解きをしちゃいけない時もあるんだって。もし謎が解けたとしても、それで誰かを傷つくのなら、迷宮入りのままの方がずっといいんだって」
伊吹君が私に一歩寄って両片に手を置いて言った。
「桃ちゃん、君が謝ることなんか何もないよ……君のこと、ずっと覚えていたのは、その……塾で会った時、可愛いなて思ったから」
「え⁉」
「それから、タマちゃんとコソコソと話なんかしてごめん……はっきり言っておく。僕は桃ちゃんのことが好きだ」
「ええええええ!!!!!!!」
「あと、僕があの塾に行かなくなったのは、君のせいじゃない。親の転勤が急に決まって、僕も姉さんも急に転校してしまったからなんだ。引っ越しの準備なんかもいろいろあったしね。結局またこの街に戻ってきたけど」
私は、伊吹君の二番目の発言に衝撃を受け、三番目の話は半分くらいしか耳に入ってこなかった。
で、自分でもどうしてそうなったかわからないけど、声をあげて泣いた……多分、申し訳ないのと、安心したのと、感激したのがごちゃごちゃに混ざって泣いてしまったんだと思う。
今度は私がタマに抱きかかえられた。
「桃、伊吹君を盗ったりなんかしないよ。アッタリマエじゃない! 恋泥棒は重罪だよ」
そんなキザなことを言って、彼女も再び泣き始めた。
バタンとドアが開閉する大きな音がした。
部屋に入ってきたのは、葉月会長さんだ。
顔を上げると、伊吹君がオロオロアタフタしていた。
「ほう、女の子二人を泣かせるとは、弟ながら隅におけないな」
「葉月姉さん……これには話すと長い訳が……」
「そんなこと、どうでもいい」
弟の言葉をさえぎると、葉月先輩は私の顔をじっと見つめた。
「小林桃君」
「は、はい」
「うちの弟、明智伊吹と名コンビとなって――二人の苗字は、探偵と助手が入れ替わっているような気もするが――この学校のミステリーを解き明かして、素敵な学校にしていってくれ」
「……はい!」
涙声ながら、私は力強く答えた。
会長さんは満足そうに微笑み、弟の伊吹君に再び向き直った。
「伊吹……心しておくように」
「はい?」
「桃君との恋を『迷宮入り』にしたら、ただでは済まないからな!」
「ハ……ハイ」
(おしまい)


