朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
「ねぇ、湊月」



「何?」



「貴方は今、心に何を持ってるの? 1番大好きなものは何? 1番無くしたくないものは何?」



「あのさ……多分だけどさ。出会って2日目の相手には、何歳なの? とか学校どこなのとか。普通そういうことを聞く」



「年齢は14。今中2。学校は……今は行ってない。これでいい? はい次、湊月の番」



「年齢は14。今中2。学校は弥生川中学」



「そっちじゃない。私の質問の方は?」



なんで、そんなことに答えねばならない。

そう思うけど、有希には有無を言わせぬ力がある。



「……前ならバスケだった」



「うん。それは知ってる」



「でも、今はそうだな。もっと知らない世界を見てみたかったな」



「じゃあ、それ、今夜叶えてあげる」



「はぁ?」



「簡単よ。病院、抜け出せばいいのよ。 わかってると思うけど消灯後すぐはダメ。看護師がラウンドしてるから。23時に地下一階の非常ドア出たとこにいて」



「そんなの……ダメに」



いや、僕は常識という固定観念に囚われてただけかもしれない。

どうせ、遅かれ早かれ動けなくなるんだ。

本当に動けなくなるうちに。



「心は決まった?」



「あぁ。でも、僕、松葉杖じゃないと痛くて歩けないよ」



「大丈夫。タクシー呼んどくから」



「有希、用意周到だな。手慣れてる」



「気のせいよ。あ、タクシー代は湊月持ちね」



「重病の入院患者からむしり取るとか、エグイな」



「でも、知らない世界を見たいんでしょ?」



有希は試すように笑った。

……その顔は卑怯だ。

感情をごまかせなくなる



「外には、行きたい」



「なら、私が連れて行ってあげる」
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