朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
「湊月、泣きそうになってる(笑)帰りのタクシーは私が払うよ」



「いや、そういう訳には。M山に行くとは思わなかったけど、僕から言い出したことだし」



「そうよ、男なら5分、いや30分前行動しなさいよ」



「え、有希。そんな待ってたの?」



有希は返事をせず、ただ睨み返してきた。

可愛い。じゃなくて謝らなきゃ。



「ごめん。タクシーも呼んでくれてありがとう」



「いいわ、別に」



有希は長くて、暗闇の中でも艶々と光る黒髪をいじってすねている。



「そうだ。帰りの車のアテ。あるかも」



「何それ」



「タクシー代、かからなくて済むかも」



「大人はダメよ。告げ口するから」



「大学生だよ」



「女?」



「そうだけど、部活の後輩の姉ちゃん」



「それならいいわ」



僕は久しぶりインスタを開いて、新にダイレクトメールを送った。

部活が遅い時、たまにこうして新の姉ちゃんが車を出してくれたのだ。

新からは秒で返信がくる。



『先輩、病院抜け出してるんすか』



『一時退院みたいなやつだ』



『こんな夜中にするわけないでしょう。姉ちゃんは起きてるんで、伝えておきます。OKです』



「だってさ」



と言って、僕は有希にスマホの画面を見せた。



「後輩くんは随分優秀なのね」



「どうだろう。もう僕より上手くなってるかもな」



「バスケのことじゃなくてよ。本当に湊月ってバスケバカ」



「うるさい!」



ほら行くわよ。とトコトコ有希は歩き出した。

僕は松葉杖でついて行く。

流石に暗いと動きづらいな。

と思っていたら、有希がスマホの懐中電灯で前を照らしてくれた。

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