愛は重くて結構です
「っ……」

以上な速度で動悸が走る。
男は女の存在を見やることもなく、ただ俺を見下ろした。
無だ。
彫刻のように整いすぎた顔は、無表情で、感情も意図も読み取れない。
スーツのジャケットまで、びっしょりと冷や汗が滲んでいる気がする。
首を絞められているかのように息が詰まっていたが、そんなことはどうでもいい。

「離せっ!」

「きゃっ」

腕を掴んで強引にこちらへ引っ張ると、女は派手に尻もちをついた。
周りの側近が群衆を散らしていく。
女はすでに歪んだ顔をさらに歪ませて、般若のような形相で立ち上がった。

「何すんのよ!」

「はーいはい、もう帰ろうねぇ」

いつのまにか目の前に停まった高級車から、甘い顔をした男が降りてくる。
穏やかな声と共に、女を宥めながら別の人間に引き渡す。

「仁科さん…」

狭まった気道に一気に空気が入ったかのように、俺はひどく安堵した。

「気をつけてね〜。まぁ、お家には帰れないだろうけど」
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