この恋、上方修正銘柄です!

 どの街でもよく見かけるその珈琲チェーン店は、日曜も早朝からモーニングを食べにやってくる客で賑わっている。
 次長の鹿ヶ谷が落ち着かない表情で、斜め向かいに座る九条に尋ねた。 
「それで何かな、九条君。わざわざ休日に呼び出して、話というのは」

 九条はゆっくりと周囲を見回して、
「ここ、良いですよね。背中合わせのボックス席と分厚い壁。声を潜めれば周囲の騒音にかき消されて、すぐ隣の席の客にも聞こえない」
と、優雅な仕草でカップを皿に置いてから。
「オノ、タナカ、ヤスダ、スズキ、サクマ。みなさん、次長のお友達ですか」
「え」
 鹿ヶ谷の視線が泳ぐのを、九条は目ざとく捉える。
「昼間、特に午前中、時々かかって来る電話。二言三言話しただけで、直ぐに切る。明らかに取引先とは違う。あれ、消費者金融からの取り立てですよね」

 九条はテーブルの上に、伝票のコピーを2枚、スッと差し出した。
「佐々木雄一、75万。林田ツタエ、68万。本人達はこの口座が解約されたこと、御存知なんですかね」
「そ、それはそうだろう」
 ブレンドコーヒーのカップを持つ鹿ヶ谷の指先が細かく震え、中の液体が波を打ってカチャカチャと音を立てる。

「ああ、コーヒーこぼしちゃいましたよ、はいこれ」
 使い捨ての紙おしぼりを手渡して、
「一見、筆跡は違って見えますが、木の払い方が同じなんです。これって何を意味してると思います?筆跡鑑定でもすれば、興味深い結果が出そうだなあ」

 鹿ヶ谷の額に浮かぶ汗と青ざめた顔に目を細め、シートに深くもたれながら、ゆったりと足を組みかえる。

「十年以上動きのない休眠口座を解約して、違法に手に入れておいた他人名義の口座に振り込む。偽造した印鑑でも使うのかな。預金課の女の子達は皆、ミスが許されないプレッシャーのもと、膨大な作業に追われてる。しかも次長から預かった伝票なら、何の疑いもなく処理するでしょう。安心してください、警察には行きませんよ。……その代わり、ねえ?」

 頬杖をつきながら、少し首を傾げてみせる九条とは目を合わさず、鹿ヶ谷は震える手でカップの柄を持ち、コーヒーを一口飲んだ。そしてガタガタとカップを皿に置いた後、深々と息を吐いた。
「……何が望みだ?」

「さすが次長、話が早くて助かります。win-winな取引を期待していますよ」
 九条はそう言って、にっこりと笑った。

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