この恋、上方修正銘柄です!
Lesson11 疑惑のデパートとロサンゼルス
11-1

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最初は軽いジャブから始まった。
「聞いた?九条さんの婚約の話!」
九条がロサンゼルスに帰って数日経った昼休み。ロッカールームで竹田たちが話しているのを聞いた時、一瞬、自分のことかと思った。が、すぐにそれがおめでたい勘違いだったことを知る。
「高崎専務の娘でしょ、インフルエンサーやってる。どっかのパーティーで九条さんが一目惚れしたとかで。ん、逆だっけ?」
「元同級生の彼女はどうなった!」
真偽を確かめようと九条にメッセージを送ったが、一向に既読はつかず、電話も繋がらない。
そうこうしているうちに、右ストレートが炸裂。
本店営業部に激震が走る。労働基準監督署の臨検が入ったのだ。
数名の監督官がやって来て、最初は型通りに36協定の確認から始まり、過去2年間の賃金台帳や出勤簿、就業規則などの提出を指示された。
これらの法定帳簿以外にもパソコンのログデータやメールの送受信履歴などがチェックされ、聞き取りは部長や次長にとどまらず行員一人ひとりにまで及んだ。
単なる形式的な調査ではなく、何かの証拠を探しているかのような徹底ぶりだったため、内部告発があったのではないかという噂が囁かれた。
続く、とどめのボディストレート。
翌週、週刊誌で暴露された内容に銀行全体が揺らいだ。
『【独自】過労自殺の行員、死直前に月200時間残業 部長の暴言録音も…銀行が隠蔽図る』
ネットニュースにセンセーショナルな見出しが躍る。3年前に起きたこの事件は会社ぐるみの隠蔽で揉み消されていたが、最近になってようやく労働基準監督署が調査に乗り出した、という内容だった。
その行員がtwitterに投稿していたツイートも掲載されていて、そこには月200時間近い残業や、部長から受けたハラスメントの様子が赤裸々に記されていた。さらに、それらを裏付ける証拠として内部関係者の証言を照らし合わせる構成となっていて、その一つがまさに錦が残していた記録そのものだった。中には土屋元課長代理のものと思われる供述もあり、リークしたのが九条だと確信した。
甲斐のツイートは悲痛なもので当時を思い出し胸が痛くなったが、どうやって九条がその記録を手に入れ、一体何のために衆目に晒したのか、錦には検討がつかなかった。
経営トップ陣は緊急で記者会見を開き、公の場で一連の不正と隠蔽を認めて謝罪した。
今回の不祥事で頭取は引責辞任、問題の部長は懲戒解雇処分となった。
当時の経緯を知っていた行員の多くは安堵し、これでようやく組織の膿を出し切れたかのように思われた。
だが事態はそれだけでは終わらなかった。