この恋、上方修正銘柄です!

「この損益分岐点チャート、固定費に地代家賃が入ってない。それに俺が審査部ならこの稟議書は通さない。業績予測が甘すぎるし、担保不動産の査定が不十分。最新の地価公示価格と路線価で再評価すること」
「分かりました。すみません」
 朝から既に山積みの書類の上に、更に突き返された稟議書が乗っかる。どこから手をつけていいか途方に暮れる錦を一瞥し、九条は席を立って上着を羽織ると、
「クライアント回ってくる。午後からは高辻も同行して。午前中には終われそう?」
「……善処します」
 後ろを通り過ぎる際に、皆には聞こえない声量の関西弁で、
「ついでに昼メシ行こ。たまには外で」
「けど、就業規則が……」
「ええからええから。規則は破るためにあるんやから」
 ぽんと肩を叩いて九条は出て行った。

 と、パーテーション越し、今の様子を観察していたらしい北川と目が合った。
「高辻さんと九条さん、仲良くないですかあ?」
「べ、別に、普通だと思うけど……」
 そこに富小路が加わって来て、
「それ言うなら北川さんこそ、昨日九条さんと二人でランチしてたクセに」
「え、ガチで見てたんですか。 怖すぎ、ストーカー?」
「あんたね、わざと目立つように行動しといてそれ言う? ナシだわー」
「富小路さんこそ、この前の歓迎会でちゃっかり一緒に帰ってたじゃないですか」
「即行で駅解散したわよ! 飲み直しません?って誘ったら、また日を改めてって濁されたし」
「他の女子とも普通に歩いてるのよく見かけるし。富小路さんだけじゃなくて、ぶっちゃけ社内みんなガチ狙いですよね。ワンチャン結婚退社まであるやつ」

 相変わらずの九条の軽さ。
 九条アーヴィングに多少なりともときめいてしまっていた自分が恥ずかしい。

 その時、堺預金課長から叱責の声が上がった。
「そこのテラー二人!もう店開くぞ!」 
「わ!すみません」
「今戻ります!」 

 随分大人になったと思っていたが、女子にマメで節操のないところは高校時代と変わっていないらしい。

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