この恋、上方修正銘柄です!

 他の企業を回るという京極に駅まで送ってもらい、ふたりで電車に乗る。
 日の入り後の、かすかに明るさが残る空。土産に貰った茶筒を手に取りながら、社長の笑顔を思い出していた。
 FBI捜査官のヒロインと怪事件を解き明かす天才科学者。棚から茶筒を取って、実験器具でサイフォン式コーヒーを淹れる。そんなシーンが見られる日が来るかもしれない。

 九条のスマホから着信音が鳴る。
「お、アレックス・ヤンからや。ほら、さっき言ってたNY在住の起業家の。めっちゃ食いついて来た」
 見せてもらった英文メッセージには、!!がやたら付いている。
「ミシガン・ロスに行って何が良かったって、世界中にいる、一花も二花も咲かせたろっていう野心持った奴らと知り合いになれたことや。それは俺にとって、一生の財産やと思う」
「……九条くん、すごいね」
「珍しいやん。高辻が俺のこと褒めるなんて」
「そんなことない。一緒に働くようになって、いつも思ってる。九条くんみたいに仕事が出来る人、うちの銀行にはいない」

 九条は意外そうに眉を動かした後、ぷいと顔を背けた。頬が少し赤い気がする。

「……もしかして、照れてる?」
「照れてへんし。ちょっと電車が暑いだけやし」
 確かに、ちょっと暑いけれど。
「それに、いつも余裕があってすごい。柿本社長にも絶対うまく行くって言い切ってたし。よっぽど自信があるんだね」
「いや、ないで。俺のは8割ハッタリや」

 え、と言葉を失う錦に少し笑うと、
「さっきの件がビジネスになると思ったのはホンマやで。けど、良いモンが必ずしも売れるかって言えばそうでもない。プロデュースの仕方にもよるし、運もタイミングもある。それでもビジネスで成功する秘訣は、まずは自分を信じることやと思うから。自分を信じてれば絶対に成功出来るって保証はないけど、自分が自分を信じられへんのに成功なんて出来るワケないからな。そのために、自信を持ってもらうこと。俺はその手伝いをしてる」
 そう言って、錦の手から茶筒を取って楽しそうに眺めると、
「机の上でだけ仕事してたら、どうしても数字でしかその会社を見れへんようになるやろ?中小企業なんかは特にそうやけど、社長のおっちゃんは家族抱えて生活しながら、夢とか野望みたいなもんもあって。それを応援すんのも金融機関の使命ちゃうんかなって思う。勿論、株式会社は非営利団体じゃないから儲けがないとアカンけど。ちゃんと血の通ったビジネスがしたい、そこだけは忘れんようにしようって、いつも思ってる」

 安田不動産の時もそうだ。タワーマンションの建設計画が頓挫した時、銀行としては静観若しくは引き上げの流れだった。それが一転、再開発プロジェクトに名を連ねることになったのは九条がいたからこそで。
 打ち合わせのため安田不動産を訪問した時、業界的にも気難しくて有名な会長に満面の笑顔で出迎えられ、直々に転職と婿入りの打診を受けていたのを思い出す。
 
 昔も今も、九条吏という男は、どうしてこんなにも自分を惹きつけるのだろう。

 ―――だから、苦手だ。

 店に帰って最初にしたことは、川端に日曜の約束を断ることだった。



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九条は敵視してるけど、川端さんはめっちゃ良い人なんですよ。
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