この恋、上方修正銘柄です!

 京極の運転で訪れたその会社は、年季が入った2階建てのプレハブ住宅だった。
 1階の工房を見せてもらった後、2階の事務所に案内される。
 最初に京極から、現状ではこれ以上の貸付は出来ないこと、保証料がかかり金利は上がるが保証協会付きの融資なら通る可能性があることの説明がされた。

「伝統工芸を推進するプロジェクトにも参加してはいるものの、会費が高い割には期待した程数字が伸びなくて。正直、もう廃業かなと思ってはいるんですが、返済の目処も立たず、やめるにやめられないのが現状で」
 作業服姿の社長が疲労の浮かぶ表情で苦く笑う。工房にいる職人の大半が社長と同世代だ。
 何を言えば良いのかと困っている錦の隣、肝心の九条はといえば、先程から茶筒の蓋を外したりかぶせたりを繰り返している。

「ちょっと九条さん、何遊んでるんですか!」
 小声で諌めると、ようやく正面の社長に顔を向けた。
「この、蓋を上に置いたらすーっと勝手に落ちてすとん、とはまる感じ。とても良いですね。蓋を回して閉めるんじゃなく、面白い」
 唐突に言われ、社長は少し面食らった面持ちで、
「はあ。まあそこは、職人の腕の見せどころですから」
「この銅製の質感、ピンクゴールドの色目もすごくキレイだ。使い込むとまた味がありそうですね」
「ああ、ありがとうございます。経年変化で深い色合いへ変化するのも銅製品の魅力の1つなんですよ」
 社長の顔に笑顔が浮かぶ。
「これをもっとこう、細長いサイズにすることは可能ですか?あと、上下の比率を変えるとか、蓋の部分に持ち手をつけるとか。底に名入れが出来たりするのも良いかも」
「はい、それは可能ですが……。茶筒のデザインを変えることに、何か意味があるんですか?」
「茶葉じゃなくてコーヒーを入れるんです。銅のように光を通さない素材はコーヒー豆や挽いた粉の保管に向いていて、これだと気密性も完璧だ。ニューヨーク在住の友人に日本文化が好きな起業家がいて、何か面白いビジネスの材料があれば教えてくれと言われてたんです。これ、絶対ハマると思う」

「実はその……前に一度海外での展開を目指したことはあるんですが、全然売れなくて」
「海外で売るには、むこうの食生活や住環境に合わせたサイズ展開が必要になります。それと、大事なのはストーリー。歴史が絡むものだと尚良い。あとは、自重で閉まる瞬間のショート動画は必須だな……ああ、僕、元々こういうものです」
 そう言って、アベル&カンパニーの名刺を渡すと、
「コンサルタントの契約を結んで頂くことにはなりますが、契約料についてはロイヤリティ、つまり売上高に応じたパーセンテージにすればお互い損はないはず。京極さん、新規取引先開拓のための運転資金なら、融資、通りますよね。無理ならアベルがクラウドファンディングでの資金調達を手配しますけど」
「おいおい、ちょっと待てよ九条君!」
 京極が慌てた顔で止めるのを見てにっこり笑うと、
「では明日にでも、アベル&カンパニー東京支社から担当者を来させます。京極さん、同席してもらっても良いですか」
「あ、ああ。それは勿論」
「そういうことで、宜しいですか、社長」

 ぽかんと惚けたままだった社長が頬を上気させ勢い良く立ち上がると、九条の手を両手でぎゅっと握った。
「こんなにワクワクしたのは何年ぶり、いや何十年ぶりか……。この年になって、またこんな風に希望が持てるなんて……ありがとうございます九条さん!」
「お礼はビジネスが成功した時で構いません。大丈夫、絶対うまく行く。僕が保証しますよ」
 
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