この恋、上方修正銘柄です!
「高辻は預金課にも居たの?」
ずっしりとした稟議書類一式を受け取りながら九条が尋ねた。
「支店に配属された新人は基本的な流れを知るためにまず預金課に配属されるんです。一日も早く融資課に行きたいと思ってました」
午後に回収してきた契約書の不備確認と印鑑照合をしていた船岡が手を止めて、
「へえ、やっぱレアっスねえ。僕の同期とか、めっちゃ割り切ってますよ。社畜にはなりたくないって愚痴ってましたし。あっ、悪口じゃなくて、褒めてるんスよ高辻さんのこと」
確かに、前の店で新人の指導員をしていた時に、私は高辻さんとは違うんですと言われた時はちょっとショックだった。
口数が少ない志水が珍しく加わってきて、
「歓迎会の日、高辻さんの偉くなります宣言を聞いて、こういう人もいるんだと驚きました」
そういえば、変なスイッチが入ってしまい、言わなくて良いことまで口走った気がする。
「お酒の席ということで、忘れて頂けると助かるんですが……」
「いやいや、あれを見たからこそ、高辻さんをこのチームに加えるって話を九条さんから聞いた時、すんなり受け入れられたっていうか。高辻さんに内部的な作業を一手に引き受けて貰えるお陰で、僕らは対外的な業務に専念出来るし、すごく仕事がしやすくなりました」
「文書系から財務分析まで、安定の信頼感。高辻さん、数字に強いッスよね。察しも良いし」
東山と船岡の言葉に、うんうん、と頷く志水。
「だってさ。良かったな、高辻」
褒め殺し?
「いえ、私なんて皆さんに比べたら全然駄目で……」
九条が眉をひそめている。
また自己評価が低過ぎると咎められそうだったので。
「でも……ありがとうございます」
「うん、素直でよろしい」
「そうだ、前から聞こうと思ってたんですが、東山さん達は中小企業診断士になるための行内選抜試験を受けたんですよね」
「あ、話題変えた」
くくっと笑っている九条は無視して、
「選ばれれば、勤務時間として専門学校に通えて費用も出るとか」
「そこ、メリットっスよね。その分プレッシャーはありますけど」
「そういやそろそろ選抜試験の時期か。船岡は在学中に1次を合格してんだよな」
「そうです。なので中小企業大学校では志水さんと同期だったんスよ」
「だからお前、俺には態度デカイよな」
「そんなことないッスよ、志水センパイ!」
九条は稟議書に決裁印を押して、
「その大学校って、検察官が受ける司法修習みたいなヤツか?」
「それとは少し違います。本来は1次試験と2次試験の両方に合格する必要があるんですが、銀行には神制度があって、1次合格後に養成機関に半年ほど通えば取れるルートがあるんです。僕らは後者のパターンで、毎年数名が中小企業大学校に出向という形で入学しています。ちなみに、約200万の費用は全額会社負担です」
「さすが都銀、太っ腹だな」
「金融庁から銀行内に中小企業診断士を置くよう指示があるとかで。実際、資格を取って独立する行員も多いから、その辺がジレンマなんでしょうけど」
ぽん、と船岡が手を叩き、皆が注目する。
「さあさあ話も弾んで、今日は金曜。ってことで、チーム九条でメシ食いに行きましょうよ。勿論、九条さんのおごりで」
「珍しく良いこと言った船岡」
「ゴチになります、九条室長」
「お前らなあ……。けどまあ良いか、新チームのキックオフ飲み会もまだだし。高辻の都合さえ良ければだけど、どう?」
注目と期待を一身に受けて、さすがに頷くしかない。
「じゃあ、船岡は高辻と店を相談して予約。俺はこの稟議に部長と次長の決裁印を貰ってそのまま審査部に行ってくる。東山は現物を締めといてくれ。30分後に出るからそのつもりで動くこと。以上!」