この恋、上方修正銘柄です!
扉が閉まって車が走り出した瞬間、九条のスイッチが切り替わる。
首元のネクタイを緩めながら、
「あーもう食い過ぎて動けへん。あいつら、人の金やと思ってシャトーブリアン頼みやがって……」
「二重人格?」
「違う。俺なりのストレス解消法や」
錦は財布から五千円札を取り出して、ハイ、と九条に差し出す。
「……なにこれ」
「私の分。足りないかもしれないけど」
差し出された札を見て、九条は眉根を寄せた。
「そんなん要らんし」
「けど、彼女じゃない女には奢らないって言ってたから」
「アホ、いつの時代の話や。大体アイツらの分は払って高辻からだけ回収するとか、上司としても男としてもアカンやろ。俺、年収幾らやと思てんねん」
「幾らなの?」
「……内緒。嫁にしか教えへん。……嫁に来る?」
「えっと、嫁、肉食う?ヴィーガンとかじゃなければ、食べるんじゃない?」
「違っがーう!!肉繋がりでオモロイけど!……わざとなん?……フラれてんのか?俺」
ブツブツ言う九条を怪訝に思いつつ、
「そういうことなら、ご馳走さまでした」
「どういうことか全く分かってないな、その顔」
「?」
腕を組んだ九条はどこか不機嫌で、錦も黙って窓の外を眺める。
街を照らす無数の明かりと、交差点を行き交う人の波。その一つひとつ、一人ひとりに暮らしがあって、同じ夜を同時に生きている。
「なあ」
不意に声を掛けられ振り向くと、予想以上に近い位置に顔があった。
じっと見つめられ、それでなくとも動揺しているところに、ぐいと体を寄せて来られて、胸の鼓動が加速する。
「ど、どうしたの、急に……」
九条は運転手を気にした様子で、声を潜めると。
