この恋、上方修正銘柄です!

「もし高辻が横領するなら、どんな方法でやる?」

「……は?」
「さっきみんなが話しとったやん。地味な銀行員のヒロインが一流のクラブママになるドラマの話。店の不正口座にある何千万もの金を自分の口座に振り込むのって、可能なん?」

 難しい顔をしてそんなことを考えていたのか。ドキドキした自分が馬鹿みたいだ。

「えっと、実務的には可能かな。但し、あんな杜撰な方法だとその日のうちに絶対バレる。取引と伝票の数は毎日突合されるから、伝票がないことでまず足がつく。仮にそこをクリア出来たとしても、行員自身や親族口座への高額振込は自動アラート機能に引っ掛かるから即アウト。正直、横領なんて出来る気がしない」
「けどその理屈やったら、伝票があって大金じゃなければバレへんってこと?」
「一番多いのは、お客さんからのクレームで発覚するパターン。本部による抜き打ち検査で見つかることもよくある。いずれにせよ、振込先が自分の口座だと一発でアウトだから、別名義の口座を用意することは必須。ダークウェブで売買されているような他人名義の口座や、銀行の休眠口座とか」
「休眠口座って、長期間取引がないと預金が没収されるってアレ?ふぁー、なんかよく寝れそうな名前……」

「正確には10年以上経過した口座のこと。没収される訳じゃなくて、手続きすればいつでも引き出せるんだけど、本人が忘れて放置してる口座なら、口座売買のルートでカードと暗証番号を手に入れれば足がつきにくいと思う。ちなみに数年前までは最終的には銀行の収益になってたけど、今は法律が変わって、国の福祉やNPOのために使われる仕組みになったみたい」

「なんか子守唄みたい……」
 大あくびをした九条に、
「もう、自分から聞いたくせに」
「ちょっと寝る。高辻んち着いたら起こして」
と、九条は腕を組み目を閉じる。一分も経たないうちに、規則正しい寝息が聞こえてきた。
 時々、がくんと前のめりになっていた頭が、そのうち錦の右肩にとん、と載る。

「……寝てるの?」

 長いまつ毛。鼻筋が通り、すっきりとした顔のライン。少し開いた唇。
 額にこぼれた髪に、そっと手を触れてみる。身じろぎした九条にビクッとしたが、起きたわけではなかったらしい。

 気が付くといつも九条のペースに巻き込まれていて、それが少しも嫌じゃない。まるで高校時代に戻ったみたいだ。

 都市再開発プロジェクト以外にも色々と仕事を任されているらしく、傍目にもオーバーワークなのが分かる。九条は全く態度に出さないが、慣れない環境でストレスや疲労も溜まっているはずだ。
 少しでも長く寝かせてあげたい気がしてきて、なるべく信号が赤であるようにと願った。

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