ひとりぼっちの上司と私
【そうだ! お店はヤスダさんが好きなお寿司を食べられるところにしましょう】
【いいですね。マグロが美味しいところ、私探します】
イザナミさんの提案にユリコさんが賛成する。
前に寿司が好きだと話したのはユリコさんとふたりの時だったような気がするが、彼女が話したのだろうか。
自分のいないところで嗜好を共有されているのは、いささか気恥ずかしい。
【ありがとうございます。じゃあ、マグロは自分が釣っていきます】
照れ隠しにそんな冗談を言ってみると、ふたりともすぐには反応してくれず、心なしかアバターまでもがスンッと無表情になった気がして(実際には変わっていないが)、急に焦ってしまう。
取り繕うひと言を探していると、画面上にふたりからのチャットがほぼ同時に表示される。
【あははっ。ヤスダさんおもしろすぎる~!】
【ヤスダさんがぴちぴち暴れるマグロを両手に抱えて登場するの、楽しみにしてますね】
どうやら、Wi-Fiの電波が悪かったかなにかで、反応が遅れていただけらしい。
ふたりが気を遣ってくれた可能性もあるが、それについてはあえて考えないことにする。
【了解です。明日、マグロ漁船への出張申請を出してきます】
俺がこんな風にふざけた物言いをするのは、いったいいつが最後だっただろう、と思う。
誰かを笑わせたいという感情すら忘れていた過去の数年間を思い、「ここまで長かったな……」と誰にともなく呟くのだった。