別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
「本日はお招きいただきありがとうございます、ヴァイス公爵夫人」
「こちらこそ、急なお誘いだったのに来ていただけて嬉しいわ。私実は、ずっと貴女とお話してみたいと思っていたのです。思っていた通り、とても美しいですのね」
「まぁ、身に余るお言葉です。ヴァイス公爵夫人も、黄色のドレスが明るい雰囲気に合っていてとても素敵ですわ」
「本当? 実は、主人に選んでいただいたの! 嬉しいわ」

 そう言って、ヴァイス公爵夫人がにこやかに笑う。



 ____今日は、ヴァイス公爵夫人とのお茶会の日。
 私にとっては、夫の愛人について何か知ることが出来るかもしれない貴重な時間だ。

 つまり私がクラウゼン侯爵夫人となってから、もう十日経ったということになる。



 ……夫に選んでもらった、か……。

 今朝、夫に「ヴァイス公爵夫人のお茶会に行ってまいりますわ」と告げた時、夫は想像通り嘘臭い反応をした。

「君を一人にするなんて、心配だな……。 本当はどこにも行かせず、君をこの家で守っていたい」
「あら、ヴァイス公爵夫人はとてもお優しい方だと評判ですわよ」

 私はそうとぼけたけれど、夫の本心などわかっている。
 夫が本当に心配しているのは、『自分が見ていないところで私が余計なことをしないか』『ヴァイス公爵家との関係を悪くしないか』ということでしょうね。

 私に求めているのは、お飾りの妻としてこの家で大人しくしていることでしょうから。
 まぁ、流石に一度目の結婚生活でも、必要最低限のお茶会や舞踏会には参加していたけれど……。あれは『愛妻家の侯爵』という体裁を守るためでしかなかったわね、今思うと。

 思い出すだけで、はぁ、とため息が出た。





「あら、何か心配事でもあるのですか?」
「あぁいえ、そうではないのです。少し……悲しいことを思い出してしまって……」

 いけないいけない、夫のことを考えていたせいで、ヴァイス公爵夫人が目の前にいることを一瞬忘れかけていた。
 おかげで余計な心配をさせてしまったわ。

 ____でもこれは、話を切り出すチャンスかもしれない。

「悲しいこと……? もし私でよければ、お話を聞かせてくださらない? 私こう見えて、顔は広いんですよ」

 えぇ、よく存じ上げているわ。そして、あなたがそう言ってくれることも、わかっていた。

 ごめんなさい、私は今からあなたを利用します。
 心優しい、あなたを。

 私は俯きながら、カップをソーサ―に置いた。

「実は……こんなこと、ヴァイス公爵夫人にしか相談できないのですが……」
「! えぇ、なんでも言ってちょうだい!」
「……夫が、私のことを一度も抱いてくださらないのです。結婚初夜の時ですら……他の女性と関係を持ったことは、あるみたいなのですが……。わ、私に魅力がないせいでしょうか……っ!」

 私は渾身の演技をしながら、両手で顔を覆った。すると、ヴァイス公爵夫人は「まぁ……」と眉を顰めながら、少し考えるように指先を唇に置いた。

 それから、夫人が言いにくそうに声を潜めながら……内緒話をするように、話を始めたのだ。

「……私、聞いたことがありますの。その……クラウゼン侯爵には、愛人がいるんじゃないかという、噂を……」

 ____きた!!

 私は興奮を面に出さないように、目を見開いてショックを受けたような表情を作る。

「……ど、どういうことですか……?」
「本当かは、わからないのよ? でも、一部のご婦人の間で、そういう噂があって……。だから、クラウゼン侯爵が結婚されると聞いて、安心したと同時に、少し驚いたの……」
「? ……安心、ですか?」
「えぇ……だって……噂というのはね……?」

 ……二人きりのお茶会。だけれども、ヴァイス公爵夫人は侍女にも会話を聞かれたくないようで、さっきよりもより一層声を潜めた。







「…………クラウゼン侯爵は、平民の方と逢瀬を重ねている、というものだったから」
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