別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
「平民……ですか!?」
「声が大きいですわ!」
「も、申し訳ありません、その、少し驚いて……しまって……」

 ____信じられない。

 愛人がいることは知っていた。でも、それはどこかの令嬢だと思っていた。
 まさか、平民の女性と愛し合っていたなんて……!

「驚くのも無理ないわ。でも、単なる噂にしては、出来すぎている証拠もあって……」
「証拠があるんですか!?」
「正確にいうと少し違うのだけれど……。私の友人に、本が大好きなハインツ伯爵夫人という方がいてね。その方がいうには、『エルフィナード伯爵令嬢をモデルにしたと思われる物語を読んだ』らしくて……」
「……私をモデルにした物語……ですか……!?」

 私がモデルの本だなんて……そんな話は、聞いたことがない。思わずそう口をはさみそうになったけれど……。
 でも、ヴァイス公爵夫人がここまで真剣な顔で話しているのだから、とりあえず話は最後まで聞くべきね。

「私は話を聞いただけなのだけれど……なんというか、本当にそっくりなのよ。さっき私は『侯爵が結婚して安心した』と言ったけれど、同時に少し怖くなったの」
「なぜですか?」
「……だって、物語の中でも……貴女はクラウゼン侯爵と思しき侯爵に求婚されて結婚するのよ。しかもその中で、『実はクラウゼン侯爵は平民と愛し合っている』という設定が出てきた……らしいの……」

 ____私は絶句した。

 それは、確かに偶然とは思えない。なら、侯爵はその物語をなぞって、私と結婚したというの? なんのために?
 ……わからない、情報が足りなすぎる。



 でも、ハッキリしたことは二つある。
 一つは、夫の愛人は平民であること。これはとても大きな情報。
 そしてもう一つは、夫がその女性と結婚していなかった理由だわ。

 私は殺されてから、「愛している女性がいるならなぜその方と結婚しなかったのか」と考えていた。
 けれど、結婚しなかったのではなく、できなかったのだわ。相手が、平民の女性だから。

 ……なら、夫が最後に言っていた「結婚できるようになった」という言葉は、どういう意味なのかしら……。

 ダメね、まだわからないことが多すぎる。でもこれは、確かな一歩だわ。
 帰りにでも、王立図書館に寄ってみましょう。……侯爵家の書斎では、怪しまれてしまうかもしれないから。


 重苦しくなった空気を打ち消すように、ヴァイス公爵夫人がパチン!と手を鳴らした。

「さぁ、暗い話はここまでにしましょう! 私、貴女と沢山話してみたかったの」
「そうですね。ありがとうございます、ヴァイス公爵夫人」
「さっきから思っていたのだけれど、イザベラで構わないわよ! その代わり私もシャーリン様と呼んでもよろしいかしら?」
「はい、もちろんですわ、イザベラ様」




 ……こうして、大きな収穫を得た私は、イザベラ様とのお茶会を楽しんだのだった。
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