別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 私の言葉を耳にした夫の顔色が、とうとう真っ白になった。

「そんな……本気で、言っているのか……?」
「冗談でこんなこと申し上げませんわ」

 私がキッパリと宣言すると、夫は目を見開いてガラガラの喉で叫び出した。

「嘘だ……嘘だ、嘘だ……! シャーリン、私を捨てないでくれ、私にはもう、君しかいないんだ……!」
「そうですか。そもそも私の他にキャロラインさんがいたのがおかしいのですけれどね。まぁ、私にはもう関係ありませんので」
「キャロラインはもう死んだだろう!? だから許してくれ、また仲の良い夫婦になろう! そうだ、二人で幸せになるんだ!」

 まだ懲りもせず縋ってくる夫に、私は最後の言葉を投げかけた。

「あなたのいない人生こそが、私にとって最大の幸福です。……さようなら」



 夫がガックリと項垂れた。どうやら、意識を失ったらしい。

「……行きましょうか。急いで荷物を纏めないとね。サラ、手伝ってくれる?」
「もちろんです」
「あ、でも、こんな深夜に御者を起こすのは申し訳ないわね……」

 私がぽつりと呟くと、アントニーが「それなら」と手を挙げる。

「俺が馬車を引きましょうか? 俺ガキの頃から傭兵として練り歩いてたんで、馬は自信ありますよ。どうせクビでしょうしね」
「……あなた、なんというか……便利ね、アントニー」
「こいつ昔っから、勉強と家事以外は割となんでもできるんです、腹立つことに」



 そうして少ない荷物を纏め終わった私達は、侯爵邸の馬車に乗り込んだ。

 馬が走り出して、侯爵邸が遠ざかっていく。

 なんだか、実感が湧かないわ。


「私、幸せになれるかしら……」
「なれますよ、奥様なら」
「ふふ、そうかしら?」
「そうですよ!」

 なぜか自信満々なサラに、つい笑みが溢れる。

 それから、ゆっくりと目を瞑る。
 脳裏に浮かぶのは、深くフードを被ったアレク様の姿。


 ____アレク様、私、遂に夫を出し抜きましたよ。

 だから、早く迎えに来てください。
 私、いつまでも待っていますから。
< 48 / 62 >

この作品をシェア

pagetop