別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 魔法を使った私は、無事に時を巻き戻すことに成功した。
 しかし、残念なことに……シャーリンにとっての人生の分岐点は、『クラウゼン侯爵と結婚式を挙げた日』だったらしい。

 しかし、今度こそ指を咥えてみているわけにはいかない。このままだと、またしても彼女は同じ人生を辿ってしまうのだから。

 そこで私は、持ってきていた一冊の本を、王立図書館に忍び込ませた。
 これは正直、賭けだった。でも、誰でもいい。誰でもいいからこの本を手に取って、シャーリンのもとまで噂が届いてほしいと思った。

 私は週に一度、必ず本をチェックした。その途中で、本の最後の方にあるポエムがあまりにも恥ずかしくなって自分でびりびりに破いてしまったのは、ここだけの話だ。

 すると、ある日のこと。
 本に、一つのメモが挟まっていた。



 …………血文字だった。



 しかも、『あなたはだれ?』とおどろおどろしい字で書かれていた。
 でも、私にはわかる。これはきっと、シャーリンに違いない。

 半分はただの願望だった。けれど私はもう半分の直感を信じて、こう返事を書いたのだ。






【久しぶり、敬愛なるシャーリン。いや、この人生では「はじめまして」が正しいかな。

 私はこの本の作者、アレクです。あなたがこの本に辿り着くか、正直私にとっては賭けでした。でも、私は賭けに勝ったと考えていいのかな?

 頭の良い君ならもう察しがついているかもしれないけれど……時を巻き戻した「青年」は、私のことです。
 前世で王都を歩いていた時、私は酔っ払いの男性に石を投げられてしまって……護衛もつけずにお忍びで歩いているときだったから、手当てもできずに貧血でその場に蹲ってしまったんだ。

 誰もが私のことを見ないふりをして去っていった。私が正体を隠している間、こんなにも私は無力なのか、民は日々こんな思いをしているのかと……初めて知った。

 その時だった。一人の美しい貴婦人が、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたんだ。そして、このハンカチを渡してくれたんだよ。シャーリン、君のことだ。
 私はその時、君に恋をした。けれど、君はもうそのころには結婚してしまっていて……私は舞踏会に参加するたび、クラウゼン侯爵とダンスを踊る君を眺めることしかできなかったんだ。想いは募るばかりだったけれどね。

 でもそんなある日、君は亡くなってしまった。私は君が幸せならそれでいいと思っていた。でも、違ったのだと初めて気づいた。君はずっと、あの侯爵に騙されていたのだと……調査をして気付いた。

 一度目の人生で、私はクラウゼン侯爵とキャロライン、そしてメルローズ男爵を処刑した。でも、君が帰ってくることはなかった。

 だから、私は人生で一度だけ使える大魔法を使って……『君の人生の分岐点』まで時を戻したんだ。本当は、結婚前に戻したかったのだけど、この魔法は影響力が大きすぎるせいか制約が多くて。そこまではできなくて……ごめんね。

 この本は、一度目の人生で全てが終わった後に書いたんだ。そして、時を巻き戻したときに一緒に持って行った。このハンカチも、その一部だ。

 あぁ、ページが破れているのは気にしないで。これは、恥ずかしくて破ってしまったんだ。その……残りのページは、君への愛を綴ったものだから。

 今度の人生こそ、君が幸せになれるよう……願っているよ。私の立場ではクラウゼン侯爵の不貞を裁くことは難しいけれど、シャーリン、君ならできると信じている。
 この本が、君の役に立てばうれしい。

 追伸 血文字は少しびっくりしたけれど、君が傷つくのは耐えられないから……。君が前に渡してくれた、このハンカチを返します。

 アレク】




 ……我ながら、少し重いなと思った。
 だが、私のシャーリンに対する想いを表現しようと思ったら、こんなものでは到底足りないくらいである。

 恥ずかしいとしたら、このメモの受け取り主がシャーリンではない別のだれかだった時だ。

 お願いだから、シャーリンがこのメモを見てくれますようにと願いながら……。
 私は、図書館を後にしたのだった。
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