別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 数日後のことだった。
 いつも通り王都を隠れて満喫していた私は、クラウゼン侯爵とシャーリンが二人でいるところを見てしまったのである。
 わかっていても、やはり胸が痛んだ。しかし、今はまだ、静かに見守っていよう。そう思いながら彼女を遠くから見ていた。

 そんな時だった。一度目の人生で私に石を投げつけた酔っ払いの男が、シャーリンを連れて行こうとしたのである。
 私は我慢ができなくなって、ついその男を捻りつぶしてしまった。
 シャーリンに姿を見せる気などなかったのに。

 直後、警備隊が駆けつけてきたのをいいことに、私は急いでその場を去った。
 間近で見たシャーリンは美しく、勇敢で、更に素敵な女性へと進化していた。思い出すだけで、顔が熱くなる。






 心が落ち着かない私は、祈りながら王立図書館へ向かった。
 するとそこには、すこし分厚く膨らんだままの本が置いてあった。開くと、そこには綺麗に折りたたまれたハンカチが挟まれている。

 あぁ、読まれなかったのかと残念に思いながら一応ハンカチを開くと、中から私が入れたものとは違う四つ折りのメモがひらりと落ちた。

 心臓がドクン、と大きく跳ねる。

 私は震える手で、メモを開いた。中にはこう書いてあった。

【アレク様へ

 シャーリンです。お返事をしてくださって、ありがとうございます。
 私はあなたの正体は聞きません。きっとあなたには、私に正体を明かせないほど尊いお方なのでしょう。

 ですが、もしできるなら、あなたにお会いしたいのです。そして、お礼が言いたいと思います。
 時を巻き戻してくださって、どうもありがとうございますと、どうか直接言わせてください。

 そして、一度目の人生で……私が亡くなった後、私の死の真相を暴いてくださったこと、嬉しく思います。私なんて、誰にも気にされていないのだと……そう思っていましたから。

 あなたの本のおかげで、私は夫の愛人の名前を知ることができました。そして、二人の計画についても……。
 あとは自分の力で、どうにかがんばってみようと思います。

 お返事、お待ちしております。

 追伸.もう怪我は治りましたので、ハンカチはお返しいたします。このハンカチは前の人生で私があなたに渡したものですから、あなたが持っていてくださるとうれしいです。お心遣いいただきありがとうございます】


 ____私は歓喜した。

 やはり、シャーリンだったのだ。それにしても、なんて美しい字なのだろうか。
 シャーリンは心だけではなく、文字まで美しい。世紀の大発見であった。

 それに、配慮ができるところも、お礼を忘れない精神も、やはり好きだと思った。

「怪我が治ったようで、何よりだ……」

 それにしても、あの血文字はやはりシャーリンが自分で書いたものなのか。
 意外とアグレッシブなところもあるのだなと、少し驚いた。

 だが、そんなところさえも愛しく映った。
 そうして私はシャーリンからの返事を大切にポケットに仕舞いながら、再び返事をしたためたのだった。

【シャーリンへ

 丁寧な返事を、どうもありがとう。私は、あなたのそんな思慮深く優しいところが好きです。

 先日、王都で男に絡まれたと風の噂で聞きました。怪我はありませんでしたか?
 子供を守って勇敢に立ち向かう、そんなあなたに恋焦がれています。

 そしてシャーリン、私はあなたに謝らなければならないことがあります。
 それは、今はまだあなたに会うことはできないということです。その理由は、きっとこの封筒を見たあなたなら察してくださることでしょう。

 でも、約束します。
 あなたが全てから解き放たれて、自由の身になった時。私は必ずあなたを迎えに行く。
 だから、その時まで……どうか待っていてくれませんか。

 いつでもあなたを想っています。
 忘れないで。私はいつでも、あなたの味方です。
 そしてそれは、私だけじゃないはずですよ。

 アレク】


 あくまで「フードの男」が私だとバレてしまわないよう、先日噂を聞いたことにして誤魔化した。
 でも、あわよくば気付いてほしい。そんな期待が確かにあったことは、否定ができない。

 私は板挟みになりながら、この日も図書館を後にして、宮殿に戻ったのだった。
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