別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 披露宴が始まった。

「シャーリン、本当におめでとう!」
「ありがとうございます、お母様」

 涙を流しながら喜ぶ母。その姿を見て、私は初めて罪悪感を抱いた。
 私は愛していない男……いいえ、憎んでいる男と結婚し、離縁しようとしている。そして夫も、私のことを愛していない。それどころか、これから不貞を働く予定であり、私のことを殺すつもりなのだ。

「クラウゼン侯爵、どうか娘をよろしくお願いいたします」
「もちろんです。生涯幸せにすると誓いましょう。こんなに美しい令嬢を娶ることができて、私はこの国一番の幸せ者です」
「もう、ヴィクトル様ったら……」

 本当に、呆れるくらい演技がお上手ね。よくもまぁそんな思ってもいない言葉がペラペラ口からでてくるものだわ。尊敬してしまうわよ。

 父もすっかり夫を信頼しきったようで、涙目でうんうんと頷きながら夫と握手をしている。私はそれを、笑顔の仮面を被りながら見ていた。

「なんだか……シャーリン、表情が変わったわね? 前は社交の場では笑うことができなかったのに……」

 母が驚いたように私を見る。ぎくりとした。
 そうだわ、ずっと私を見てくれていた両親が、私の変化に気付かないわけがない。かといって、まさか結婚生活をやり直ししている、なんていっても信じてもらえるはずがないわ。
 私だって、いまだに半信半疑なんだもの……。

 それに、これ以上夫に疑われるのはまずい。

「……ヴィクトル様の、おかげですわ。彼のプロポーズの言葉で、私は生まれ変わることができたのです。これからは、お母様たちから教わったことを大切に、侯爵夫人として相応しい振る舞いをいたします」
「まぁ、そうだったのね……!! 娘をこんなに変えてくれた方なら、安心して娘を任せられますわ。今後とも、ぜひよろしくお願いいたします」

 私の苦し紛れの言い訳に、母は納得したようだった。
 母はお人好しで人が良い。だから、当然私のことも夫のことも疑うなんて発想がない。

 ……私も、夫に殺されるまではもっと素直な性格をしていたのだけれど。随分、変わってしまいましたわね……。

「では、そろそろ私共は失礼いたします」

 両親が去っていく。そういえば、一度目の結婚の後に両親と会えたのは、たったの一回だけだったわね。夫は私が外に出るのを嫌がったから、私も素直にそれに従っていたのだわ。嫌われたくなくて。
 なのに、そんな夫に殺されるなんて……訃報を聞いた両親はどう思ったのかしら。きっと私はあのあと、馬車にでも乗せられて事故の体で処理されたんでしょうけれども。

「……シャーリン、顔が険しいが……緊張しているのか?」

 いけないいけない、過去のことを思い出すとつい、この男を許せない気持ちでいっぱいになってしまう。ここは社交の場。侯爵夫人にとって……貴族にとって戦場同然なのだから、しっかり笑っていないとね。

「えぇ、お恥ずかしいですが少し。ですが、もう大丈夫ですわ。さぁ、ご挨拶に参りましょう?」
「あ、あぁ、そうだな……」

 恥じらった表情を見せて、気丈に振る舞う。これも、一度目の結婚生活で身に着けたこと。
 ……いいえ、それよりも格段に演技や振る舞いが上手くなっているわね。一回死んで失うものが何もないから、こんな風に振る舞えるのかしら。

 ____そう考えたら、なんだか皮肉ね。



 私は心の中で自嘲しながら、夫に腕を絡ませて挨拶へと向かったのだった。
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