別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
「…………流石に、疲れたわ」

 盛大に行われた披露宴は、それはもう長い間盛り上がった。何時間続いたのかしら? 詳しいことはわからないけれど……。

 無事に披露宴もお開きとなって、今は侍女が用意してくれていた私室のベッドに倒れ込んでいる。


 もう最後の方なんて、私のひ弱な表情筋がピクピクしていたわ。それもそうよね、今の私の身体は笑うことに全く慣れていないんだもの。

 ____けれど、収穫はあった。

 一度目の人生で、友人とまではいかないまでも……何度かお茶会に誘っていただけたり、お話したことがあるヴァイス公爵夫人と接触することが出来たのだから。

 彼女は公爵夫人なだけあって、人脈があって顔が広い、そしてなによりも少し噂好きでお人好し。
 彼女ならば、夫の「愛している女性」とやらの情報を何か知っているかもしれないわ。

 ……私が殺される直前の口ぶりからして、夫と愛人は定期的に密会を重ねていたはず。そんなことをして、上流貴族の間でひとつも噂にならない訳がないもの。


 それに、ヴァイス公爵夫人はとても親身になってくれるはずよ。だって……

「私はあまり評判も良くなくて……素晴らしい夫に釣り合う侯爵夫人になるために、ヴァイス公爵夫人に色々とご教授願いたいのです」

 …………こんなことを言ったんだから、面倒みの良いヴァイス公爵夫人は絶対に話を聞いてくださるわ。

 それに、一度目の結婚生活の時、夫は私が一人で社交の場に出ることをあまり良しとしなかったけれど……。ヴァイス公爵夫人なら話は別だわ。
 なんと言っても、この国の三大公爵家のうちのひとつなんですもの。いくら「愛しいシャーリンを一人で社交の場に送り出すなんて、心配だよ」なんて薄っぺらいセリフを並べていた夫でも、ヴァイス公爵家レベルとの関係は保っておきたいらしい。

 一度目の人生でも、上流貴族とのお茶会は許されたのよね。本当、打算的で助かるわ。まぁ、貴族なんてそんなものよね。



 ……兎にも角にも、ヴァイス公爵夫人に誘っていただけたお茶会の予定は、十日後。
 それまでにプレゼントを調達したり、ドレスを準備したり……することは山積みね。これから忙しくなるわよ。




 けれど、私にはその前に乗り越えなければならない、一大イベントがある。


 ____コン、コン、コン……

「奥様、失礼いたします。お支度を整えに参りました。……本日は、大切な夜でございますから」
「そうね、ありがとう」

 そう、結婚初夜だ。
 準備は侍女が完璧にしてくれるから問題ない。けれど、勝負はその後よ。

 夫は私を抱かない、それは知っている。それに、私だって夫に抱かれたいなんて今は思わない。

 けれど、前回の結婚生活の時のように……「抱く」「抱かない」の主導権を夫に握らせてはいけない。




 絶対に、私がコントロールしてみせる。

 それに、今考えている作戦が上手く行けば……今後夫に対して有利に立ち回れるようになるかもしれないもの、ね。


「じゃあ、準備をお願いするわね」
「もちろんでございます」

 ____あなた達の大切な主人を、貶めるための種を撒くための準備を……ね。
< 9 / 62 >

この作品をシェア

pagetop