灰色の日々に、君が灯した甘い色
彼は、そんな私を覗き込むようにして、ふうっと息を吐いた。

「そっか……難しいな」
「ハートだけじゃ、やっぱり伝わらないかぁ」

少しだけがっかりしたような声だった。

「……え?」

気付けば、また距離が近くなっていた。
コーヒーの香りがふわりと鼻先をかすめる。

目にかかった前髪を、骨ばった指でかき上げる仕草に心臓が騒がしくなる。

この動悸は更年期だからじゃないって、気付いてしまった。

(年下の……若い子なのに……)

ほんの数日、会わなかっただけで。
こんなに大人びた顔をするものなのだろうか。

彼を見ていると、めまいがしてくる。


(このままじゃ……顔から炎が噴き出ちゃう!)
(寒そうな顔に、どうしたらなれるんだっけ?)
(出でよ……真冬の結界……真冬の結界……)

逃げるように視線を逸らそうとしたのに――


「……この前のラテなんですけど」


彼の声に引き止められてしまった。
絡め取られるように目が合ってしまう。

「一番うまくできたんです」

彼は目元をやさしく細める。

「あの……ハートの、カフェラテのこと?」

聞き返すと、嬉しそうに頷く。

彼は小さく深呼吸をすると、私をまっすぐに見つめる。
そして、ゆっくりと口を開いた。


「ホットコーヒーじゃない日を、ずっと楽しみにしてました」

「――(みどり)さん」


周りの空気ごと溶かしそうなくらい、柔らかい笑みだった。

私の名前が甘く響いて、頭の中が真っ白に染まっていく。
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