灰色の日々に、君が灯した甘い色
しばらく黙って見つめていた彼が、こちらへ少し歩み寄った、その時――

「しらいしくん、またねー!」

突然、彼の背後から明るい声が飛んできた。

「あ、お疲れさまでした」

彼が振り返り、軽く頭を下げる。

(しらいしくん!)
(漢字は……「白石」……くん、かな?)

合っていたら、彼にとても似合う色。
心の中でその名前をなぞると、じんわりと温かくなってくる。


だけれど、すぐに冷たい風が吹いた。

声をかけてきたのは、あの日、彼と親しげに笑い合っていた女の子だったから。

また、華やかな格好をしていて、楽しそうに手を振って去っていく。

「……君の彼女だ……」

抑えきれなかった独り言が、唇からこぼれ落ちる。
持っていた灰色のカーディガンを、ぎゅっと抱きしめた。

「はい!?!?」

彼が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見た。
すごく慌てた様子で大げさに首を振る。

「違います違います! うちの店の先輩です!!」
「それに、ほら」

彼が顎で示した先、路肩に停まった車の助手席へ、彼女は迷うことなく乗り込んでいった。

運転席には若い男性がいた。

「あの子の彼氏ですよ」

「え……、君の彼女じゃないの……」

走り去っていく車を見送りながら、全身からみるみる力が抜けていく。

(そうなんだあ……)


――そう思ってしまってから、さらに焦る。

(いやいや、彼女じゃなかったからって)
(私には何の関係もないから……)


なのに、胸を塞いでいた重たいものが嘘みたいに消えていく。

さっきから、気持ちが上がったり下がったりで忙しすぎる。

いい加減どうにかなってしまいそう。
脳内で真っ赤なサイレンが鳴り響いていた。
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