灰色の日々に、君が灯した甘い色

【彼目線】第1話 名前のない色

七月七日。

オフィス街の駅前。
忙しなく行き交うスーツの波に呑まれそうで、一人立っているだけで落ち着かない。

目の前を、白いシャツを着た会社員が通り過ぎる。
白いビルの壁に、夏の日差しが反射している。
見上げれば、薄く霞んだ空まで白っぽく見えた。

僕は、帽子を目深に被り、マスクで顔を隠す。
ため息をつくと、マスクの内側に自分の息がこもった。

(暑い……)

でも、知らない場所や人混みに緊張すると、こうして顔を隠すのが昔からの癖だった。
人目を避けるようにして、僕は待ち合わせの相手を待っていた。


信号待ちの列をぼんやり眺めていると、ふと、少し離れた場所に佇む女の人が目にとまった。

肩にかかる黒髪が風に揺れて、手には灰色のカーディガン。
その人はただ、俯いたまま静かにそこにいた。

(信号が青になったら気づけるのかな……)

そんなふうに思いながら、自分も下を向く。
途切れることのない人の足を眺めていると、不意に不安が湧いてきた。

これから先のことを考えると、胸の奥が落ち着かなくなる。

何が嫌なのかと聞かれても、たぶん、うまく答えられない。
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